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ぐっと腕に力を込めて前髪に軽くキスをする。
サーチングキスをされると身構えていただろう、拍子抜けした様子に「好きだよ」と囁く。え、と紗佳が口を開いたのも束の間。噛みつくように唇をとらえ、口蓋に舌を這わせる。びくっと跳ねる華奢な肩を壊さないよう、なんとか注意して抑える。そのまま余すところなく探っていくと、紗佳の息が上がってきた。
まだ足りない。まだ。ドンドンと胸を叩く力が強まってくる。はっとして離れれば、じゅるっと音を立てて重めの糸がぽたりと垂れた。
「ふ、はっ」
「大丈夫?」
上気した頬に潤んだ瞳がまた身体の奥を刺激する。
「さやちゃん、ボタンが――」
「え? あっ」
シャツの胸元を寄せて隠す。夢中になってボタンに手をかけていたようだ。ちらりと見える下着から視線をそらす。こんなどうにもならない、壊してしまいたい衝動と、あと何回戦えばいいのだろう。
「続ける?」
なんてね、と。いつもの調子でからかうように尋ねる紗佳に「いい加減にしろ」と言い放った。
「俺はしないって思ってる? 本当に卒業するまで手は出さないって」
黙って俯くのは肯定されたも同然だ。はあ、とため息をつく。
「いつもキスはしてるよな。軽いのも、さっきみたいのも」
「さっきのは、初めてだけど……」
「止まらなかったんだ」
まだ微かに濡れた唇を親指でなぞる。
「さやちゃんが思うよりずっと、男はどうしようもないんだよ」
ちょっとわからない、という風に目が泳ぐ。だろうな。じゃなきゃあんなに毎日あおってこない。
「どうせ俺は一線を越えない、俺ならいくらあおっても大丈夫、これ以上は絶対ないって思って試してるんだろう?」
「それは――」
「俺がどんだけ耐えてるのか。さやちゃんの視線とかちょっとした動きに左右されて、触れた肌の柔らかさにしんどくなるか。このまま何もかも取っ払ってめちゃくちゃに抱けたらどんなにいいかって。毎日毎日思ってる、今だってそうだ」
情けないけど、懇願するみたいに紗佳の腕にすがる。目の前の太ももに意識がいかないよう、また目をつぶる。
「確かに俺は遊んでた。求められたら応じたし過去については言い訳しないよ。だけどさやちゃんを、はけ口にしたくない。そんな理由で抱きたくない。どうしても大切なのに……なのに、今にも理性が崩れそうで。これ以上は耐えられそうにないんだ」
泰喜、と小さく呼ぶ声がする。
「そういうことだから、覚えておいてほしい。大事にしたいんだよ。頼む、俺を弄ばないでくれ――!」
掛ける言葉もないのだろう。何の反応も降ってこない。それなりに興味はあっても真面目な紗佳のことだ、嫌われてしまうかもしれない。失敗したか、と掴んでいた腕から手を離す。
「泰喜、あの」
「……悪い。言い過ぎた」
「謝らないで」
身体を起こすと、ほっとしたような顔が見えた。
「合ってるよ。先のことに興味あるのは私だけかなって考えてた。そんなに辛い思いをさせてたなんて。本当にごめんなさい」
ちょこんと頭を下げる。
「でも、ちょっと嬉しい」
「嬉しい?」
「私と違って、泰喜には元カノもいるし。皆に言わないのも私を守るためだってわかってる。たくさん経験が……そう考えると胸がきゅってなっちゃて、本当に想ってくれてることを確かめて安心してた。手を出してこないのも、その理由も、態度も。疑うことなかったのに。試すような真似してごめんなさい」
いじわるだよね、と続ける紗佳に今度は自分が恥ずかしくなって背を向ける。
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