1st Impression.

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 縫合を難なく終えた慶一朗が疑問に感じたことを口にすると、皆が多分とだけ返した為か納得のいかない顔で肩を竦めるが、ドイツ系だったら兄貴の名前がノエルということはあり得ないかと笑い、皆が一瞬遅れた後に口々に笑い出す。  「兄弟の仲が悪かったりして?」  「可能性はあるだろうなぁ・・・。それにしても、なんてタイミングだろうな」  アンディが勧めてくれたバンドの中心メンバーである兄弟と、今話題になっている来週からやってくる小児科医のファーストネームが同じだなんてと肩を竦め、もっともリアムというファーストネームがウィリアムなどの省略形だったら話は別だと慶一朗が笑った時、アンディがリクエストした曲が終わりを迎える。  それに合わせてか慶一朗の手も動きが止まり、隣に立つスタッフに一言二言語りかけたかと思うと、アンディへと向き直り、終わったぞと満足そうな笑みを浮かべる。  「お疲れ様でした、ドクター」  「ああ、今回もありがとう」  スタッフの労いの言葉にありがとうと丁寧に返しつつアンディには顎で出て行く事を伝えた慶一朗は、手術室と廊下の間の部屋で汚れた手術着や手袋を脱ぎ捨てると、もたもたしている後輩に微苦笑し、今日は勉強になったかと問いかける。  「はい!」  ありがとうございましたと礼を言い、二人で肩を並べて廊下に出ると、手術室に入る前に言葉を交わしたメンテナンススタッフと出くわすが、今回は手をあげて笑みを浮かべるだけで特に言葉を交わすこともなく医局へと向かうのだった。
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