1st Impression.

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 先日完成させたジオラマにお気に入りの列車を走らせてみようか、それとも新たな風景を追加しようかと思案しつつ駐車場に停めてある愛車に乗り込みエンジンを掛けてアイドリングをしていると身体の奥底に響く音からジオラマよりも本能的な何かに意識が向いてしまい、そういえば最近特定のパートナーがいないことと夜遊びも控えていた為に暇を持て余している可能性がある友人の名前を脳裏に浮かべるが、どうしようかとステアリングを意味もなく指先で撫でてしまう。  空腹を感じているし自宅に戻った所で食べるものなどほぼないのだからどこかで食料品を調達しなければならず、それも面倒くさいからカフェかお気に入りのベーカリーで食べて帰っても良いかと車の低い天井を見上げた時、カーナビがスマホの着信を伝え、短く返事をするとスピーカーから耳にすることの少ない日本語が聞こえてくる。 『今大丈夫か?』 「勿論、大丈夫」  スピーカーから聞こえてきた声はぶっきら棒なものだったが彼にとっては当たり前のもので、電話相手に何か問題でもあったのかとの問いを返すこともなく大丈夫と返すと、フランクフルトで模型を買ったから家に送った、そろそろ届くはずと教えられて無意識のうちに顔がにやついてしまう。 「何を買ってくれたんだ?」 『インターシティーのロゴとツバメのイラストが入っていたかな?』  はっきりとは忘れたから届いたら開けてみてくれ、同じものを持っていたら売るなりなんなり好きにして良いと、意識していない己の声と同じそれに苦笑気味に教えられて見えない相手に満面の笑みを浮かべてしまい、どうやらそれが相手にも伝わったようで微苦笑交じりの声に揶揄われてしまう。 『……嬉しそうだな』 「嬉しいに決まってるだろ?」  この電話で疲れや面倒臭さが全部吹っ飛んだ、本当に嬉しい、ああ、ありがとうと相手限定の素直な言葉を返した彼だったが、咳払いを一つしたあと、うんと頷いてステアリングに額を軽く押し当てる。 「……Danke, mein Bruder.」 『Bitte.』
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