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今まで自分から好きになった人などいない、いつも相手から求められた結果付き合って別れてきたと不意に芽生えた情けなさから肩を揺らして伝えると、目尻と口の端に優しいキスが降ってくる。
「……そうか。じゃあ好きな相手とのセックスは初めてか」
何だろう、すげぇ嬉しいと嬉しさを顔中に広げている事が簡単に想像できる声で囁かれ、感じたことがない奇妙な胸のザワツキを覚えた慶一朗は広い背中に小さく震える手を回してシャツを握りしめる。
リアムの言葉通り今まで付き合ってきた恋人-と呼べる関係かどうかももはや怪しい-達とのセックスは、ただ持て余した熱を解消するような、二人でいるのだからそれが当たり前のように行っていただけで、そこに愛だの何だのが介在する余地などなかった。
ただ刹那的に抱き合い、熱が消えると同時にその相手に対しても感じていたものも消え去っていたのだとリアムの言葉から自覚した慶一朗は、そんな彼らと少しだけ違ったケネスとの関係が忘れられない理由にも気付き、あの時身体が覚えてしまった恐怖が引きずり出されたように感じて自然と体を震わせる。
その震えが伝わったのか己の言動が恐怖を与えたのかと心配そうに問われてそうじゃないと小さな声で否定をした慶一朗は、リアムの言動を振り返り、情けないところばかり見せていても呆れたり笑ったりはせずにただ真正面からそれを受け止めて受け入れてくれていた事を思い出し、彼とは違う、同じようにならないと己に言い聞かせる。
「……リアム」
このままが良いと、名を呼んだ後にこのままが良いと繰り返し、双子の兄以外に見せたことがない甘えるような顔を自然と見せた慶一朗の耳に嬉しそうなうんという短い返事が流れ込み、全身から力が抜けるような安心感を覚えてその腕に全てを預けるのだった。
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