Save your Heart.

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 体内に溜まっていた熱を全て吐き出した満足の顔で眠る慶一朗の頭の下に腕を差し入れたリアムは、無理をさせたのではないかとの思いと同じく満足した気持ちの狭間で欠伸をする。  初めて慶一朗の存在を知ったのはこの街に引っ越して来たその日だった。  商店街を歩いている時に駐車された車の中で楽しそうな顔で口を開閉させている横顔が印象的で、−今思えばきっとあれは双子の兄と電話でもしていたのだろう−その後、何気なく入ったベーカリーでぶつかりそうになり、家の前での再会を果たすという、今思えば嘘のような出会いだったが、極め付けは職場も同じという間違いようのない現実だった。  そこから友人として急速に親しくなっていく中、決して忘れられない、初めて目にしたものとは真逆の笑顔を見てしまい、どうしてそんな顔をするんだと胸が苦しくなったのだ。  そんな笑顔を浮かべる必要はない、無理に笑うなとの気持ちがいつしか、隣にいれば、一緒にいれば初めて見た心からの笑顔を見せてくれるだろうか、見せて欲しいとの願望へと成長したのだ。  そのリアムの思いを当初慶一朗は拒絶していたが、一人の被虐待児の存在が二人の関係を大きく変化させたのだ。  その子を救えなかったのは痛ましい悔しい事だったが、慶一朗との関係を変えてくれた事に感謝しつつもう一度欠伸をしたリアムは、腕の中から聞こえてくる小さな寝息に目を閉じ、明日目を覚ました時に笑顔が見られれば良いと願いつつ慶一朗に遅れて眠りに就くのだった。
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