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「……体力が有り余ってるのか?」
「お前よりはあるだろうなぁ」
それにしても昨日のお前は本当に可愛かったと、座面に頬杖をついてにやりと笑う愛嬌のある顔に端正な顔を近付けた慶一朗は、男に向かって可愛いと言うなと鼻息荒く言い放ち、馬鹿にされているようでその言葉は嫌いだとも告げると驚いたようにリアムが目を見張るが、確かにそうだと前言を撤回する。
「これは失礼、Mein Kaiser.」
「……皇帝陛下か。悪くないな」
可愛いより百倍も良いと笑う慶一朗だったがその腹の辺りから盛大な音が響き、二人同時に顔を見合わせて笑い出す。
「どうやら陛下の腹も減っているようですし。何か食べますか?」
前言に倣った言葉遣いで慶一朗に手を差し出したリアムは、その手に自然と手が重ねられた事に無意識に安堵の息を零し、己が不安を感じていたことに気付く。
その不安は昨日の告白の後にこれから俺たちはどうなるんだという耳を疑うようなことを問われ、付き合ってくれという言葉の意味を本当に理解しているのかという疑問から生まれたものだった。
ハーバーブリッジの下でここにくれば日本に帰りたくなると感傷的になると教えてくれたが、告白に対する了承の返事はその感傷から出たものではないのか。
それ以前に、何かにつけ付き合ってくれと言い続けていた事で、断ることも面倒になったから付き合うことにしたのではないのか。
その不安が熱に浮かされた一夜を過ぎて冷静になった朝、眠っている慶一朗を見ながらリアムの胸に生まれてしまったのだ。
慶一朗の身体が痛みを訴えるほど抱いてしまった昨日、掠れた声で好きだと告白された筈なのに生まれた不安を解消することができなかった。
その不安から重ねられた手を握りしめて腕を引き、バスローブに包まれた体を抱きしめる。
「どうした?」
「……飯を食ってからで良いから少し話をしたい」
「今でも構わないけど?」
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