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腹が減っているときに話さないほうがいい真剣な話なら後で聞くけれど今話を聞いても大丈夫だと小首を傾げた後、リアムの広い背中を緩く抱きしめた慶一朗は、どうした、何か不安なことがあるのかと囁き、抱きしめられている腕に力がこもった事に気付いて小さな笑い声を零す。
「……リアム、リーアム」
「……」
「俺が生まれて初めて……好きになったお人よしのマッチョマン、顔を見せろ」
何の不安を感じているのか分からないが昨夜のあの自信はどこに行ったと、リアムの頭を胸に抱きよせるように背伸びをした慶一朗は、背中を抱く腕の強さに苦しさを感じつつもどうしたと優しく囁きかけ、ランチの前に解消してしまおうとも囁くと強引にリアムをソファに座らせ、有無を言わさない強さでその顔を見下ろし足の上に座り込む。
そして冷静さを装いながら思い当たる一つの質問投げかける。
「……やはり俺と付き合うのを止めたいか?」
「Nein! そうじゃない!」
自分でもおかしいと思っているがさっきお前が俺の手に手を乗せてくれた、それが凄く嬉しかったんだと羞恥から口早に叫ぶリアムに呆然と目を見開いた慶一朗は、俺がずっと好きだと言い続け、笑ってくれと言い続けたから迷惑に感じていたんじゃないか、仕方ないから付き合ってやると思っていたんじゃないかと不安だったと、慶一朗からすれば信じられないほどの素直な言葉を聞かされて絶句してしまう。
その言葉は少し前にリアムの気持ちに応える自信がないと双子の兄に愚痴をこぼした際、兄の恋人の一央が、リアムも同じように不安を抱えているのではないか、不安や恐怖を感じているのは何も慶一朗だけではないのではないかと告げた言葉が的中していることを教えてくれるもので、無意識にあぁと溜息交じりの言葉を零した慶一朗は、無理強いしたくない、でもやっぱりお前が好きなんだと消え入りそうな声で告白され、リアムも己の中の不安と戦っていた事に気付くと微かに震える手でリアムの顔を挟み、逃れられない距離で視線を重ねる。
「リアム……俺の知らないことを教えてくれる人」
どれほど馬鹿なことをやってもきっと笑顔で受け止めてくれる、この世にいるのが奇跡のような人、どうかそんな顔をせずに笑ってくれと慶一朗が持てる限りの愛情を込めて囁いた後にそっと額にキスをし、驚くヘイゼルの双眸にもキスをすると、薄く開く唇にまるで誓いのキスのような神聖さを感じさせるキスをする。
「ケイ……っ!」
「約束する。お前が覚えた不安を、もう二度と感じる必要はない」
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