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リアムが用意したランチは本人曰くの賄い料理に毛が生えたものらしいが、食べることに疎い慶一朗にとってはお金を払って食べる料理にしか感じられなかった。
それらをダイニングテーブルに向かい合わせの席の中央に並べたリアムだったが、冷蔵庫からビールを二本取り出して後生大事に運んできた慶一朗がリアムのテーブルセッティングに不満を覚えたようで、二つしかない椅子の一つをもう一つの横に並べ、裏庭に出る掃き出し窓を並んで見ながら食べられるようにセットし直す。
「……並んで食べたいのか?」
「何となく」
向かい合わせで互いの顔を見ながら食べるのも悪くは無いが今は横に並んで同じものを食べたいとリアムが無意識に唾を飲み込んでしまうような顔で笑った慶一朗は、己の恋人になったばかりの家事全般何でもできるマッチョマンの様子に気付いてニヤリと笑みを浮かべる。
「……腹が減ったからメシにしよう」
「そうだな」
今日はバーベキューグリルを出せないのでフライパンで焼いたがそれでも多分美味しいはずの分厚いハムにチーズを載せ、ジャガイモはスライスして玉ねぎと軽くソテーし、味付けにはビールに合うようにブラックペッパーを使ったと椅子を引いて慶一朗に座れと促したリアムは、自分で出来ると目尻を少し赤らめる慶一朗の頬に後ろからキスをし、早く座れと笑顔で再度促す。
貴人や淑女じゃあるまいしと口の中でぶつぶつ文句を言いながらもリアムが引いてくれた椅子に腰を下ろすと、丁度のタイミングで椅子が定位置に戻される。
隣にリアムが座るのを見計らいビールの王冠を開けた慶一朗は、ボトルを差し出して自らも手に取ると乾杯と嬉しそうな顔でボトルの底をぶつけ合う。
「なあ、ケイ」
「何だ?」
リアムが味の確認をするように食べ始める横、慶一朗は美味そうにビールを飲むだけで料理に手をつけようとしなかった。
それに気付いたリアムが前と同じ作戦は通用するかなと考えつつジャガイモをフォークで突き刺すと、慶一朗の顔の前に差し出す。
「味見」
「出来てから味見するのか?」
何か違うと笑いながら差し出されるそれを食べた慶一朗がビールに合うなと小さく笑った為、リアムが及第点を貰えたとニヤリと笑い、今度はハムを食えと差し出す。
この時の慶一朗はこれが意味する事に気付いていたが、恋人になったばかりのリアムの心遣いに気後れと感謝とを感じてしまう。
「ほら」
「……ん」
リアムが作る料理は本当にどれも美味しくて、いつかも覚えた感想を口にすると愛嬌のある顔に隠しきれない嬉しさが浮かび上がる。
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