1st Impression.

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 飛び立った空港では粉雪が舞っていたが、到着した空港は真夏の乾燥した空気に包まれていて、着ていた薄手のジャケットを脱ぎ、仕事か観光かはたまた帰国しただけかは分からないが、この先の楽しみを思い浮かべていたり、目的地に漸く到着した安堵に綻んだ顔で通路に並ぶ人達の波に紛れて空から地上の人になる。  ビジネスクラスかファーストクラスかは不明だが、彼が乗ってきたエコノミーではないことは確実な通路から観光客やビジネスマンらが一足先に降りていく中、くすんだ金髪を首筋の上で一つに束ねた青いピアスを両耳に一つずつ填めた男に肩がぶつかりそうになる。 「Entschuldigung!」 「Kein problem!」  失礼と蒼い双眸にドイツ語で謝罪されて片手を挙げて問題ありませんと返すと、通話中の相手に人にぶつかりそうになっただけと話している様子だったが、何でそんなことを言うんだよ、オーヴェの意地悪、トイフェルと立て続けに罵る声が聞こえてきて、悪魔と罵る電話相手はどんな相手だと気になるが、通路の少し先でどこかで見たような気がする厳しい顔の男が振り返り、早く来いと声を挙げる横を擦り抜けて入国審査に向かう通路を進む。 「あ、カンガルーがコアラを背負ってるぬいぐるみがある」 「まだこれから仕事がある事を分かっているのか?」  これを買えば一目で何処に行って来たかが分かるお土産だと笑うさっきぶつかりそうになった男の言葉に、到着したばかりでもう土産の話かと呆れたように威厳のある男が溜息を零すのを背中で聴きながら入国審査の列に並ぶと、さほど混み合っていない為と慣れた行為でもあるからかすぐに手続きが終わり、来週から新たな勤務先働く為に母国とは季節が逆転している国にまた帰ってきたと小さな感慨を込めて呟き、到着ゲートから晴れ渡る青空が眩しい外に出た彼は、人待ち顔のタクシードライバーを見つけて乗り込むと、シドニー市内にあるホテルに向かってくれと告げるのだった。
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