1st Impression.

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 失礼と蒼い双眸に謝られ、片手を挙げて問題ありませんと返すと、どうやら相手は電話をしていたようで、スマホの向こうに人にぶつかりそうになっただけと話していたが、何でそんなことを言うんだよ、オーヴェの意地悪、トイフェルと立て続けに罵った為、悪魔と罵る電話相手はどんな相手だと気になるが、少し先でどこかで見たような気がする厳しい顔の男が振り返り、早く来いと声を挙げる横を擦り抜けて入国審査に向かう通路を進む。  「あ、カンガルーがコアラを背負ってるぬいぐるみがある」  「まだこれから仕事がある事を分かっているのか?」  これを買えば一目で何処に行って来たかが分かるお土産だと笑うさっきぶつかりそうになった男の言葉に、到着したばかりでもう土産の話かと呆れたように威厳のある男が溜息を零すのを背中で聴きながら入国審査の列に並ぶと、さほど混み合っていない為と慣れた行為でもあるからかすぐに手続きが終わり、来週から新たな病院で勤務する為に母国とは季節が逆転している国にまた帰ってきたと小さな感慨を込め、到着ゲートから晴れ渡る青空が眩しい外に出た彼は、人待ち顔のタクシードライバーを見つけてタクシーに乗り込むと、シドニー市内にあるホテルに向かってくれと告げるのだった。
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