Dance with me. - every day, every night –

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 二人が勤務する病院では、入院している子供達に少しでも気持ちを明るく持って欲しいとの思いと、気持ちが上向けば治療への態度も変わってくるのではないかという思いからレクリエーションの類に力を入れていた。  クリニクラウンと呼ばれる病院を専門に回っているピエロが定期的に来ることもそうだし、地元の音楽家が子供達の為に演奏をしたりと、手を替え品を替え、入院している子供達が少しでも笑顔を浮かべてくれるようにとサポートをしていたのだ。  今日の午後のダンスはその一環で、集まった子供達はダンスを教えてくれる地元ボランティアの元に集まり、そんな子供達を少し離れた場所からスタッフらが見守っていた。  その子供達の輪の中に当たり前の顔で入り、誰からも拒絶されることなく受け入れられているリアムを、少し離れた場所から慶一朗が興味深げに見守っていた。  ランチの時にダンスは殆どしなかったと告白していたリアムだが、こうして子供達と一緒に何かをすることにかけては抵抗感もないのか、子供達と似たり寄ったりの顔で講師の言葉に頷いたり問い返したりしていた。  公言していないが己の秘密の恋人は、目が奪われてしまうような美形ではなく、贔屓目に見ても愛嬌のある顔としか言えなかった。  そんな彼だが、子供達からの信頼は大きなもので、己の患者である子供達やその両親からも容易く信頼を得ているようだった。  リアムの不思議な特性の一端をふと見たような気持ちになった慶一朗は、腕を組み替えて壁に背中を預ける。  大柄のリアムの周囲には背丈は様々な子供達が集まり、その子供達の顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいるのだが、リアム自身にも同じような笑みが浮かんでいるのだ。  その瞬間のリアムの顔に目を奪われ、一瞬呼吸すら忘れそうになった慶一朗は、己の浮かれ具合に気付いて咳払いをし、自然と口元がにやけるのを隠すように手を口元にあてがう。  好きだから付き合って欲しいと告白され、いつかくる別れと己は人に好かれるはずがないという強迫観念のような思いから受け入れられなかったその告白だったが、リアムの様な皆から好かれるだろう男に愛されているという事実は慶一朗の胸の何処かに小さな暖かな炎を生み出し、それは今でも確かに消えることなく燃え続けているのだ。  その熱が顔に上がってきたかの様な熱を感じ、頭を一つ振った慶一朗だったが、隣にそっとやって来たアナに気付き、咳払いをして一瞬で表情を切り替える。
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