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「今日は珍しく素直だな」
その言葉を出せばどんな反応をするのかが手に取るようにわかる為、リアムはぐっと堪えて手触りの良いゆるく波打つ髪を撫でて今日のダンスは本当に楽しかったと、ピアス穴がうっすらと残る耳朶に囁きかける。
「本当か?」
「ケイに嘘をついてどうする?」
本当に楽しかった、もっと踊りたかったと本音を隠さずに告げるリアムに慶一朗がソファから滑り落ちる様にリアムのあぐらをかいた足の上に座ると、鼻先にキスをした後もう一度頭を抱え込む。
「俺ももっと踊りたかった」
週末に俺がよく遊びに行っていたクラブに行こう、そこで時間も人の視線も気にせずに一晩中踊ろうと慶一朗がリアムの耳に囁きかけると、あまり行ったことがないからお前に恥をかかせないかなと不安そうな声が聞こえてきて、今度は額と額を重ね、お前と一緒にいることが俺の自慢なのにと囁くと、流石にそのストレートな言葉にリアムの目が丸くなる。
その様子から己の言葉の意味に気付き、周知に目尻を赤くした慶一朗だったが、何も間違ったことを言っていない、その通りだと開き直った様にニヤリと笑みを浮かべると、リアムの顔に昼にも見た、まるで真夏の青空を連想させる笑みが浮かび、ああと内心嘆息した後、小さな音を立てて唇にキスをする。
「ケイ?」
「週末なんて待ってられないな────リアム、踊るぞ」
「え?・・・ああ、喜んで」
驚くリアムの足の上から立ち上がり、今日の昼とは違って今度は慶一朗がリアムに掌を向けると、見た方の鼓動が止まりそうな艶のある笑みを浮かべ、ドイツ語で踊ろうと誘いの言葉を掛ける。
慶一朗の珍しい行為に喜んでと同じくドイツ語で返したリアムは、テレビのスイッチを切るとスマホのラジオアプリからダンスミュージックばかりを流すチャンネルを選択し、流れてきた曲に合わせる様に慶一朗に手を伸ばす。
「今日はずっと踊っている気がする。こんなに踊ったのは学生の頃以来だな」
「そうなのか?」
ダンスミュージックといってもテンポの良いものからスローステップなものまで流れる為、どんな曲が流れるかを楽しみにしつつ、昼は周囲の目があって出来なかった、二人だけで満足するまでリアムの家のリビングをダンスルームにするのだった。
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