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この店のオーナーは名の通った変わり者で、初めての団体客を入れるなんて珍しいと慶一朗が口笛を吹いてオーナーの英断を認めるが、何か問題が起きたとしても大丈夫だと隣に立つリアムの腕を一つ撫でて片眼を閉じる。
オーナーは慶一朗の古くからの友人で、慶一朗と一緒だから誰にも何も言われずにリアムも店内に入れているが、通常であればこのセキュリティスタッフにじろりと一瞥されているはずだった。
そんな仕事熱心な彼にもう一度手を挙げて挨拶をしたリアムは慶一朗が中に入るのについていき、店内に流れる陽気な曲とそれに合わせた照明に一瞬ハレーションを起こしそうになる。
「……何か飲むか?」
店に来た時には必ず飲み物を注文するが店内の照明が目の裏で明滅し、今日は調子が悪いとリアムが自己診断を下した時、カウンターの奥から大股に駆け寄ってきた性別不詳の人物がカウンターに腕を付いて身を乗り出してくる。
「ハイ! ケイ、リアム! 良く来てくれたね!」
最近は毎週のように来てくれて嬉しい限りだけどと、満面の笑みの割には何か引っかかりを覚えるような笑顔で二人に声をかけてきたのは、古代エジプトの有名な女王をリスペクトしているのかと疑いたくなるような髪型をした同年代の男だった。
一見すれば性別不明なこの男性が、この店のオーナーであり慶一朗の友人でもあるルカだった。
友人の声に顔を振り向けて彼と同じようにカウンターに腕を付いた慶一朗が呼吸をする自然さでルカにキスをし、同じように彼も返すが、毎回その挨拶を何とも言えない顔で見守ってしまうリアムにもルカは事情は分かると言いたげな顔で頬にキスをしてくれるのだ。
優しさなのか同情なのか理解に苦しむそれにも律義に同じ場所へとキスを返したリアムだったが、今日は奥が少々喧しいから程々にしたほうがいいと、慶一朗とリアムの間に顔を突っ込んだ性別不詳のクレオパトラが艶めかしいというよりは胡乱な目つきで囁き、二人がその顔を至近距離で見つめてしまう。
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