Night and Day.

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「どうしても断れない客からの紹介だったから……」  だから入れてしまったけれど実はもうかなり後悔していると肩を竦められ、これは早々に退散したほうが良いと慶一朗が判断した時、カウンターの奥でビールを飲んでいた、悪夢から抜け出してきたような化粧をした小柄な女性が近寄ってくる。 「ハーイ、ケイ、久しぶりねぇ」 「……久しぶりだな、バンビーノ」  身長が190センチを超えるリアムは別にしても慶一朗は小柄ではなかったが、それでもそんな彼よりも小さなバンビーノと呼んだ女性がグラスを差し出し、そちらの長身マッチョなイケメンはどなたと秋波を送るが、そんな彼女に対し珍しく慶一朗がぶっきら棒な口調で上段から言い放つ。 「どんな芝生でも青く見える目を持つバンビーノ、この庭は俺のものだ」  例え世界中の芝生が寝転がる許可を与えたとしてもこいつには手を出すな、出した事が分かればそのつけまつげを全部引っこ抜いてやるぞと、色素の薄い双眸を細めてバンビーノと呼んだ女性を見下ろすと、彼女が舌打ちをした後、だれがそんな筋肉バカに手を出すかと一声叫んで舌を出し、気分が悪いわと踵を返していく。  己の恋人は仕事でもプライベートでも余程のことがない限り人に対して悪い印象を与えるような言動は取らないのだが、彼女へのそれがリアムにとってはかなり新鮮なもので、呆気に取られつつ慶一朗の横顔を見つめれば、ばつが悪いといいそうな顔で視線を逸らしてしまう。 「……俺のもの?」 「う、るさい。ああでも言わないとあいつは……」  すぐに人の男に手を出すからとそっぽを向いたまま不明瞭な声で言い訳をする慶一朗のうなじが控えめな照明の下でも赤く染まっている事に気付き、滅多に見ることも聞くこともない本心が姿を見せたことに気付く。  ただそれだけでさっきまでの気怠さが無くなった気がしたリアムだったが、それでもやはり調子が悪いと訴える己の声を無視することはなく、ルカと慶一朗のどちらにも伝わるように口を開く。 「ケイは楽しみたいようだけど、今日は早めに帰っても良いか?」
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