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ダンスフロアで顔を紅潮させながら踊るお前やカウンターでルカと楽しそうに話しながら飲んでいるお前を見ていたいが、今日は調子が悪すぎると二人に謝罪するように伝えると、慶一朗のきれいな指がそっと上がりリアムの耳朶を軽く摘まむ。
「ケイ?」
「……一杯だけ飲んで帰らないか?」
リアムの耳朶を摘まんだことで何かを察したのか、慶一朗がさっきまでとは全く違う顔で頷いたため、近くでそれを見守っていたルカの目が驚きに見開かれる。
慶一朗の交友関係をある程度は知っているルカだったが、リアムへの態度が今までの相手とは何かが違うことに気付き、ある意味真っ当な恋愛関係を築けなかった友人がもしかすると初めてそれが出来る相手と一緒にいるのではとも気付くと、無意識のうちに安堵のため息を零してしまう。
「ケイ、リアム、僕は向こうの客の相手をしなきゃいけないからちょっと戻ってこれないけど、帰る時は気を付けてね」
今夜はやけに警官の姿を見かけるからと二人にだけ忠告したオーナーは、小さな音を立ててそれぞれの頬にもう一度キスをした後、店の奥へと姿を消す。
ルカが店の奥へと消えた後はどちらも飲む気持ちも踊る気持ちも起きず、せっかくここまできたが今夜は帰ろうと慶一朗がリアムの腰を一つ撫でる。
「良いのか?」
一杯だけでも飲めばどうだと己の我儘につき合わせる申し訳なさに慶一朗の耳元に顔を寄せたリアムだったが、外にいたアンディが言ったように店の雰囲気が確かにいつもと違うこと、バンビーノがいるおかげで楽しい気分が吹っ飛んだ、反吐が出ると言いたげな顔で吐き捨てられて目を丸くし、そういうことなら帰ろうと店を出る。
入ったばかりの二人が出てきたことに軽く驚いたセキュリティスタッフのアンディに一つ肩を竦めた慶一朗は、今日は乗り気じゃなくなったから帰ると告げ、来週また来るからルカによろしく伝えてくれと告げつつお小遣いだとポケットに一番大きな硬貨を一枚落とす。
子供の小遣いにすらならない50セント硬貨だが、慶一朗が帰る時にアンディに渡すのが儀式のようになっていて、アンディもいかつい顔に少しだけ笑みを浮かべてポケットをポンと叩く。
「ルカにいつも言ってるんだけどな、あいつを早くキックアウトしろって」
「……オーナーにまた伝えておきますよ」
「ぜひそうしてくれ」
手を挙げて挨拶を交わし愛車の運転席に乗り込んだ慶一朗は、同じように乗り込んでくるリアムの様子を少し窺っているが、調子が悪いのは体調ではなくメンタルだと察し、これならば早く自宅に帰って二人でゆっくりしたほうが良いと判断を下す。
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