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手術室がいくつか連なるフロアのエレベーターから、まるでお気に入りのアーティストのライブに向かうような顔で一見するだけでは年齢不詳の男と、そんな彼とは対照的に顔を強張らせたまだ若い青年が降りてくる。
「ハイ、ドクター、今から手術?」
「おはよう、ジーン。ああ、一仕事終わらせてくるよ」
古くからこの病院で働くスタッフが気軽に声を掛け、それに笑顔で頷いた彼は、隣で緊張を隠し切れない青年がたかが掃除スタッフにあんなにも気軽に返事をするのかと問いかけたいのを堪える顔で見つめてきた事に気付き、足を止めて緊張する顔を真正面から見つめる。
「……何故、たかがメンテナンススタッフに声を掛けるかって?」
「……yes」
「俺が挨拶をしたいからだな」
あれがもし病院長であっても理事長であっても挨拶をしたくない時はしないかなと、なんでもない事のように肩を竦めると手術室の扉が開くのを待つ。
「今日の患者は学生か」
早く病巣を取り去って元気になってほしいなと笑い開いた扉の中に入ると、スタンバイが終わっていたらしいスタッフらが一斉に扉へと顔を向け、口々におはようと声を掛ける。
「今日もやるか」
緊張気味の青年とは対照的な気軽さでスタッフに合図を送り、手術の準備を終えた彼は、手術台で麻酔をかけられて眠っている患者の顔をちらりと確認すると目を閉じて手術前のルーティーンを終えてそっと顔を上げる。
「――良し」
「ドクター、今日の終わりは何をかけますか?」
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