1st Impression.

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 己の指導医でありこの手術の執刀医であるドクター・ユズこと杠慶一朗が、同僚の医師達から羨望や嫉妬の眼差しを送られる要因を目の当たりにしたアンディは、手術で最も緊張を強いられる工程が終わり、後はどの医者でも出来る作業に掛かった時に手術室に大音量で流れ出したギターの音にとび上がってしまう。 「自分で勧めたんだろ、アンディ?」  その曲に驚いてどうするんだと笑いながら縫合をする慶一朗にアンディが突然聞こえたからと言い訳をするが、リズムを取るように爪先が床を叩き、縫合を進める手の動きも軽やかになっていることに気付いて周囲を見回してみると、スタッフ達もそろそろ手術が終わりだと分かっている顔で己の作業の確認をし始める。  この病院でも有名な医師が己の指導医でありその執刀に立ち会える幸運に緊張していたアンディだったが、手術が終わりを迎えそうになった今、スタッフ達の間に少しの緊張の緩みが出たのか、来週から小児科に新しいドクターが来るそうだと誰かが告げ、その話は聞いた、リアム・フーバーというそうだと別の誰かが返す。 「……ドイツ系?」 「名前からすればそうみたいですね」  縫合を難なく終えた慶一朗が疑問に感じたことを口にすると、皆が多分とだけ返した為か納得のいかない顔で肩を竦めるが、ドイツ系だったら兄貴の名前がノエルということはあり得ないかと笑い、皆が一瞬遅れた後に口々に笑い出す。 「兄弟の仲が悪かったりして?」 「可能性はあるだろうなぁ……。それにしても、なんてタイミングだろうな」
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