1st Impression.

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 己の新たな勤務先の同僚になる人達に名前について話題にされていることなど想像もできなかったリアムは、ホテルに荷物を降ろしてシャワーを浴びて着替えを済ませると、引越し先のフラットの鍵をもらうためにオーナーと待ち合わせているカフェに向かう準備をする。  母国に一時帰国する前まで住んでいたフラットはシドニー市内の為に以前の勤務先には近かったが家賃が割高で、しかも次の勤務先はシドニー市内から交通機関を利用して一時間以上郊外へ向かわなければならない為、前の部屋では通勤に不便だった。  その為、ドイツで羽を伸ばしている時にも時間を見つけては引越し先の家を探していたのだが、病院から車で三十分程の距離にある住宅街のフラットに空きがある事を知り、オーナーに連絡を取ったのだ。  実際に家を見ることが出来ずに不安だったが、オーナーが丁寧にビデオ通話で室内を見せてくれ、間取りも男の一人暮らしには勿体ない程の上に前と比べれば家賃もさほど変わらない為、ほぼ即決で契約を結んだのだ。  その家の鍵をこれから貰いに行くのだが、その家がある町は10歳からこの街で暮らしているリアムが今まで一度も訪れた事のない町で、待ち合わせのカフェと住所をスマホで確かめて電車の乗り込み新しく生活を始める町へと出向く。  夏の日中、よほどのことがない限りは家を出たくないと思える暑さの中、電車は心地よい振動でシドニーの中心部から緑が多くなる郊外へと進んで行く。
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