1st Impression.

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 規則正しい揺れに眠気を誘われて大きく欠伸をしたリアムだったが、斜め前のシートでぐずりそうになっている子供を発見し、ついつい大きな手を広げて意識を向けさせてしまう。  母親の肩に後ろ向きに抱かれているからか子供の母親は気づいていないようだったが、リアムが大きな手を広げたり閉じたりを繰り返すうちに子供の興味が向いたのか、泣きそうになっていた顔にじわじわと笑みが浮かび、満面の笑みになるにはさほど時間は掛からなかった。  前の病院でも称賛された子供の機嫌を取る特技をここでも披露し、目的の駅にまだ着かないのかと車窓を見ると、赤いレンガの倉庫が通り過ぎ、車内アナウンスが目的の駅に近づいた事を教えてくれる。  座っているのも飽きたとドア付近のスペースに立つと程なくして駅のプラットフォームに電車が滑り込み、ドアが開いて早く降りろと促してくる。  ドアに急かされるように電車を降り線路を跨ぐ階段を一段飛ばしに駆け上がっていくと、住宅街の最寄り駅である事を教えるように、駅から見える光景の中に大小様々な家が立ち並んでいるのが見える。  この一画に引越し先の家があるはずだと思いつつ待ち合わせのカフェへと向かったリアムはその後運命の出会いを果たすことになるのだが、当然ながら当人にそんなことなどわかるはずも無く、今日も暑いな昨日までいたドイツでは雪が降っていたのにと、燦々と輝く太陽をサングラス越しに見上げて眩しいと当たり前のことを呟くのだった。
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