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誕生日の前夜だった。
僕は階段を上がり、父さんと母さんの寝室へ向かった。
すでになにかプレゼントを買ってくれているんじゃないかと思った。
ほかの場所はあらかた調べたけれど、何もなかった。
ぼくは両親の寝室へ入ると、クローゼットや書き物机の中をあさった。
何もなかった。
ただ、幼くして死んだという僕の兄の形見――幼児用の服やおもちゃなど――が大事そうに箱に入れて、クローゼットの奥にしまってあった。
それをよく見ると、ハイティーン向けの服が入っていた。
兄はいま生きていれば十七歳だが、零歳の時に事故で死んでいる。
箱の中身を取り出してみたら、どうやら兄のための服は、一年に一枚ずつ買っているようで、きっかり十七着あった。
僕は服なんて買ってもらったことがない。僕が着ているものは、その辺の古着やオーバーをつくろい直したものばっかりだ。
十四年間、一度も誕生日プレゼントというものをもらったことがなかった。
だから明日ももらえなくて当たり前だっただろう。
期待しなくてよかった。
僕は胸をなでおろした。
これが明日の誕生日当日だったら、とうとう親から誕生日に一度もなにももらえないままだったという悲しみに、僕は耐えられなかっただろう。
だめもとで前の日に確認しに来てよかった。
山刀を戻しに、納屋へ行かなくては。
僕は階段を下りた。
父さんと母さんは静かに居間にあった。
両親は、昨日までと同じ日々がいつまでも続くと信じていて、僕は逆に、こんな毎日を終わらせるときはいつくるのだろうと思いながら生きていた。
それに気付かなかったのが、両親の失敗だった。
体中のあざが痛む。
けれどこんなに、服も家も汚してもまったく怒られない夜は初めてで、気分がよかった。
悲しみのかけらもなくそう思えるように育ててくれたことにだけは、少しだけ、両親に感謝した。
終
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