27.ヒートと番成立

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27.ヒートと番成立

 その後は集中してと怒られたのなんて嘘みたいに俺は与えられる快感に夢中になった。やはり注射のせいでヒートも誘発されてるらしい。 ――しかも礼央は今日アルファ向け抑制剤を飲んでるのに……。  俺が番になりたいと言ったのがよほど嬉しかったのか、抑制剤無しの時みたいに礼央は強引で情熱的だった。俺がいくら恥ずかしいと言っても後ろの窄まりを舐めるのをやめてくれない。そこから出る分泌液もアルファにとって酷く蠱惑的な香りがしているそうだ。もちろんオメガである自分にはわからない。周囲を舐めるだけでなく舌を中まで入れられ、美しい男にいやらしいことをさせているという背徳感と快感に身悶えする。 ――礼央がこんなはしたないことをするのは俺にだけ……。  理性を失うほど求められるのは嬉しかった。だけど彼のものと違って、舌先では奥まで届かないのがもどかしい。俺は彼の前髪に指を絡めながら言う。 「あん……礼央、もうそれ嫌……ちゃんと、してよ……」  礼央がこちらを上目遣いに見つめて口の端を引き上げる。いつもの優しい微笑みじゃなく、意地の悪い表情を浮かべて。  ただ甘やかされるのもいいけれど、たまにちょっと意地悪されるのも刺激的で俺はぞくぞくしてしまう。 「何を? 何をどうして欲しいのかな?」  そう言いながら彼は俺の後孔の入り口を指先でくすぐった。 「や……ぁ。そんなの……」 「こう?」  すると彼はまた同じように舌で窄まりを舐めた。気持ちいいけど、もうちがうものが欲しい。 「そ、そうじゃなくて……んっ! だめ……や、やだ……それじゃない」 「じゃあ何? 言ってよ美耶さん。僕はどうすればいいんです?」 「はぁ……あ、ん。もういれて……」  俺はあさましく腰を揺らして誘ってしまいそうになるのをぐっと堪えて言う。 「どこに? 何を?」  礼央は笑いながら俺の入り口に指をあてた。二本指でそこ開いたり窄めたりして弄んでいる。俺は恥ずかしくて顔を手で覆いながら言った。 「ぁ……中に……礼央のを挿れて」  すると礼央がゆっくりと指を中に沈めた。舌よりも、彼の長い指は奥に進んでいく――。だけど、まだ足りない。もっと、もう少し先へ……。 「挿れるだけでいいの?」 「挿れて、それから中で……出して」  礼央は満足したようで、ようやく指を抜き、俺の体に覆いかぶさってきた。彼の肌も興奮で少し赤みを帯びており、屹立した陰茎は天をついていた。俺はそれを見て、これから与えられる快楽の予感に吐息を漏らした。  礼央は俺の耳元で「奥までたくさんしてあげる」と囁いた。それと同時に蜜で濡れた窄まりに熱い塊を押し込んだ。 ――普段あんなに優しいのに、セックスの時はどうしてこうもねちっこくて意地悪になるんだ。  礼央の筋肉質な腹部が俺の皮膚に触れる。深い――。彼が桐谷と違うのは、こんな所まで届くのかというほど深くに届くこと。これまで開かれなかった扉を礼央だけがこじ開けて、俺をどこまでも気持ちよくしてくれる。ぐいぐいと腰を押し付けられ、最奥を抉られる感じがたまらない――。しかも入れられるまでに焦らしに焦らされているので、いざ入れられたときの快感はすごかった。  はじめはゆるやかに、そして次第に大きく揺さぶられながら、俺は礼央の身体にしがみつく。 「あっ……あっあ、いいっ……そこ、そこいいっ」  礼央が荒い息を吐きながら器用に俺の感じる部分を攻める。しばらく目を閉じたままその感覚に浸っていると、礼央が言う。 「美耶さん、美耶……ねえ顔見せて?」 「やっ、あ、やだ、恥ずかしい」  すると彼は言い方を変えた。 「キスさせてよ」  顔を見せるのは嫌だけどキスはしたいので礼央を見上げた。きっともう、とろけきったみっともない顔をしているにちがいない。息も絶え絶えになりながら、俺はキスを求めて彼の汗ばむ髪の毛を掴んだ。 「キスして……礼央」 「ああ、発情してる顔すごくエロい――美耶は恥ずかしい振りするけど、気持ちいいこと大好きだもんね?」 「うん……好き……好き……!」  すると礼央が俺の唇を塞いだ。ぬるりと肉厚な舌が入り込み、俺の口中を這い回る。濡れた音を立てて礼央は唇を離す。腰を揺すりながら彼が言う。 「匂いやば……。ねえ、美耶さん僕のコレ、好き?」 「ん、礼央のが好き、気持ちいい……奥まで来てすごい……」 「可愛すぎる美耶さんのせいでもう出そうだよ」 「もう早く出して。奥にいっぱい……」 「美耶、愛してる」  礼央は腰をゆっくり回すように動かしながら中に射精した。アルファの射精は長く、量も多い。中で脈打つのを感じながら、俺も絶頂を迎える。 「ああ……美耶さんの中うねって……すごい、搾り取られるみたいだ……最高……」  気持ちよさそうに顔を歪める礼央が愛しくて、俺は手を伸ばしキスする。 「次は後ろからして。お願い首噛んで」 「美耶さん、俺を試してるの?」 ――なに? どういう意味? とにかく早く噛んで欲しい。  そう思ってたら礼央は俺の身体をひっくり返してやや乱暴に腰を掴むといきなりまた挿入してきた。 「ああっ、待って。まだイッたばっかりなのに……」  アルファの体力はもちろん最上級で、性的な持続力も並ではない。俺は自らねだったことを後悔するくらい奥を執拗に突かれ、掻きまぜられた。腰が砕けそうになるのを耐えつつ震えている最中に礼央が言う。 「噛むよ、美耶さん」  そして彼の犬歯がうなじの皮膚に食い込んだ。 「ひぃっ! あっ……やぁっ」  ぶつ、という感覚と同時にゾクゾクと電流に似た快感が背筋を駆け巡って俺は仰け反った。 「んんっ……はぁ………んっ」 ――痛いけど気持ちいい……。もっと、もっとして……。  首も何箇所も噛まれて痛いのか気持ちいいのかもうよくわからなくなっていた。何度絶頂を迎えたかもわからない。噛まれた時の感触はなんともいえず、何かが礼央と繋がったのを実感した。  その後は礼央ももう言葉少なになってはぁはぁと荒く息を吐いているばかりだ。獣じみたセックスに溺れて、最後に俺は意識を手放した。  ◇◇◇   その後も一週間休みを取っていた礼央は、抑制剤を一度も飲まずに俺の相手をしてくれた。俺は期間中食欲がなかったからゼリー飲料などを飲んで凌いでいたけど、礼央は出す分だけ食べるとでもいうようにデリバリーでいつも以上に食べていた。  そして、もう三十二歳の俺はヒートが明ける頃にはボロボロになっていた。 「年長者を労われよ……イテテテ」  腰や全身の関節が馬鹿みたいに痛む。 「ヒート明けすぐにクリニックに来いって言われてたんだからな。本当は今日行きたかったけど無理だよ」 「すみません、美耶さんがあまりにも可愛くてつい……」 「可愛いなんて歳じゃないんだよ俺は!」 「いえ、間違いなく可愛いのでそこは譲れません」 ――まったく! 俺は涼しい顔をしている美形の夫を睨んだ。 「首も噛みすぎ」  ヒート中は気持ち良さでわけがわからなくなっていたけど、身体の熱が落ち着いたら首の噛み傷が猛烈に痛み始めた。それで鏡を合わせて背後を見たら、歯型だらけでひどい有様。もう、うちの旦那様はどんだけがっついたんだとびっくりした。 「それは……! それはすみません。僕が悪いです」 「はい、傷の手当てして」  ヒート明けでまたアルファの抑制剤を飲み始めた礼央はいつもの優しい夫に戻っていた。激しくしすぎた自責の念で、いつも以上に気を遣って壊れ物を扱うみたいに慎重に手当てされる。 「番になった(あと)ってもっとロマンチックな気持ちで見られると思ってたのに〜」 「ごめんなさい、ごめんなさい!」 「狂犬に襲われた痕みたい」 「うう……ごめんなさい……」  礼央はすっかりしょんぼりしてしまった。いじめるのはこのくらいにしておくか。 「ふふ、嘘。礼央があの時俺のこといじめるからお返ししただけ」 「……怒ってないですか?」 「怒らないよ。(つがい) になれて嬉しい」  礼央の目を見て微笑んだ。 「よかったぁ。嫌われたら、もう噛んだ後だしどうしようかと思いました」  礼央はほっとした様子で俺を後ろから包み込むように抱きしめた。 ――そんなことくらいで嫌いになってどうするんだよ。  礼央の手が俺の下腹部を優しく撫でている。何も言わないが、二人とも考えてることは同じだ。 ――ちゃんと排卵してるといいな……。  以前はヒートでアルファと身体を重ねたら簡単に妊娠するって思ってた。でも実際にはまず卵がちゃんと育って、卵巣から排卵しないといけない。  俺はまずここが第一関門。  そして卵管でタイミング良く精子と出会って受精して……っていうのが第二関門。これは先生にタイミング指導してもらったし大丈夫だと思う。  で、受精卵が卵管を通って子宮に入って、子宮内膜に着床して初めて妊娠するんだよな。 ――なんていうか、道のり長い! 正直簡単に妊娠出来る人が羨ましい。  でも俺も可能性ゼロなわけじゃないから今回ダメでもまた頑張れるし。 「美耶さん、明日も休み取るから僕がクリニックへ送っていくね」 「そこまでしなくて良いよ。大迫にお願いするから」 「だめ、まだ本調子じゃないから僕が……」 「れーお。まだこの先長いんだよ? 通院の度に休めないだろ。大丈夫だからちゃんと仕事しなさい」 ――ほんと心配性だなぁ。  そして翌日「やっぱり僕が送る」と言い出した礼央をなんとか宥めて大迫の車でクリニックに赴いた。  エコーの結果、前回見た時大きくなっていた卵胞は無くなってるので、ちゃんと排卵しただろうとのこと。俺はまず少しほっとした。これでうまく受精して着床出来れば妊娠だし、ダメならまたもう一回最初から三ヶ月後にやり直しだ。 「じゃあ、○月○日に判定しますのでこちらで予約取っておきますね。黄体ホルモンのお薬は無くなるまで飲みきってください」  女性だと生理が来れば妊娠しなかったのがわかるが、オメガ男性はそれが無いため、クリニックで血液検査をするらしい。  黄体ホルモンは子宮内膜を充実させてくれるもので、着床を助けてくれるそうだ。この薬は前回貰ってあり既に飲み始めていた。 「あの、判定日まで気をつけることはありますか?」 「いいえ、特に無いですよ。普段通り、気にし過ぎないのが一番。なるべく気を楽にして過ごしてて下さい」  そうは言われたものの、もちろんこの後判定日までたまに思い出しては悶々とするのであった。
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