緑ヶ丘高校生物部

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緑ヶ丘高校生物部

どぅるるるるるん、という低く響く排気音が近づいてくる。 黒いメットに黒皮のジャンパーとパンツ。真っ赤なライダーシューズに赤のグローブ。ホンダのCB、しかも750ccで現れたのは緑川高校屈指の変わり者で知られている、桜本大(さくらもと まさる)。数学教師だ。 数学の教師なのに、なぜか生物部の顧問を引き受けている。ほかに面白そうな部活がなかったから、というのが理由らしい。それに一番適任だと思われる生物学の先生はバードウォッチングに忙しくて部活は無理、地学の先生は地質調査で自治体からハザードマップの作成依頼が来てるからダメと断られ、物理の先生は天文部、化学は一番まっとうに化学部を担当している。 生物部の3年は部長の中里をはじめ、癖の強いのが集まっている。2年や1年は3年に圧倒されている。ただみんな部活にはあまり熱心ではない。部長と新山という1年生が常連という感じの部活だ。 「中里センパイー、今日は裏山の湿地帯調査ですよね。そろそろ行きますよ。」 「新山、おまえ『働かないアリ』って知ってるか?」 「ああ、なんかアリってみんなが働いているんじゃなくて1/3くらいは働いてないってやつっすよね?働いているやつがいなくなると、働きだすんでしたっけ。」 「そういうんじゃなくて、『本気で働かないアリ』がいるんだ。」 「へーー。ヒモみたいなやつってことっすか?」 「まあ近いっていうか、そんな感じかな。」 「いいなあ、俺も働きたくないっすー。で、何もしないで一日中ゴロゴロできるのが夢っすよねー。だれか俺を養ってくれないっすかねぇ。」 「世の中、そんなやつばかりになったらどうなると思う?」 「うーーん、みんなじゃあ困るっすよね。誰も働かないんだから、飢え死にしそうっす。」 「まさにそういうアリがいるんだ。」 「ええー、そんなやつら生き延びれないっすよね。」 「それが延々と現代にも生き延びてる。」 「なんで?なんでー?」 「おーーい、新山ぁ、何やってるんだー。中里部長、早くつれてこいって。日がくれちゃうぞー。」 「あっ、先生。すみませーん、いまいきまーす。」 部室のある3階の窓から下を見下ろすと顧問の桜本先生がグーを作って早く来ないと一発お見舞いするぞというポーズをしている。 「部長、早くいかないとっっ。」 振り返ると中里部長の姿はなかった。 「あっ、ひっでーセンパイーー。おいていかないでーー。」 慌てて追いかける新山。
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