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2.ううぅぅ…
「お母さん?陽美香?」
トーンを落とした声で、母と娘の名前を呼んでみるが返事はない。
聞こえて来るのは、テレビの中の能天気な笑い声だけだ。
テレビもつけっ放しで?…
頭の中がパニックを起こしている。
何が起こって、
血は誰のもので、
二人はどこへ行った???
取り敢えず電話だ。
バッグからスマホを取り出そうとして、手が震えて床に落とした。
気持ちを整えるように大きく息をすると、スマホを拾い起動させた。
娘から着信の嵐。
もう1時間ほど前のものだ。
いつも職場から駐車場に向かいながらスマホのチェックをするのに、たまたま同僚が一緒に居たので、今日に限って見ていなかった。
電話を折り返すが、呼び出し音が鳴るだけで、応答はない。
状況が何もわからないまま、不安に押し潰されそうにる。
「ニャ〜」
母の部屋から、猫の “ 大福 ” が、ゆったりと歩いて来た。
イライラしたり、落ち込むことなんかがあっても、いつも “ 大福 ” のふわふわした体を撫で、柔らかな肉球のついた手を握ったりすると、不思議と気持ちが和らいだ。
「ねぇ…何があったの?」
私は、大福を抱き上げ、後頭部に顔を埋めると、泣きそうな心を抑えて呟いてみる。
…聞いても無駄か…
仮に真相を目撃していたとしても、人間に伝える術などないのだから…。
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