ストーキングクラブ

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 翌日、別荘の管理人が縛られている僕を発見した。警察沙汰にはしたくないからと言って管理人を追い返すと、急いで彼女に電話をかけた。だが、応答がない。酷い目に遭わされたりしていないか、気掛かりだ。アプリを起動し、彼女のライブ動画を表示してみる。  僕の知らない部屋にいる彼女の姿が映った。スマホを覗き込んでいる。暴力を振るわれたりはしなかったようだ。 「無事で良かった」  僕がそう呟いた途端、画面の向こうで彼女がビクッと身体を震わせた。彼女が手にするスマホにカメラがズームしていく。画面には男性の顔が映っていた。写真かと思ったが、動いたので動画か。いや、あれは僕の顔だ。彼女が観ているのは、僕のスマホが写している、今の僕だ。そう思った直後、アプリが落ちてしまい、何度試してみても、もうログインできない。  僕は証券会社のアプリを開いた。それまで購入してあった株は全て売り払われ、覚えのない銘柄を大量に保有している。粉飾決算が明らかになったことで、その銘柄の株式取引が一時停止していると速報が伝えていた。  都内に戻り、彼女の店を訪ねてみたが、入り口に閉店の知らせが貼られていた。その後も、彼女とは連絡が取れないままだ。  僕が保有していた不動産の近隣では、鉄道敷設や開発計画の中止が立て続けに発表された。商業ビルのテナントからも退去申込みが相次いでいる。これでは、売り払おうにも買い手が付きそうもない。  保有していた株はストップ安に張り付いたまま数日が経過している。売り注文は出しているが、一向に売買が成立する気配はない。  すべての資産を整理しても、これまでの暮らしぶりを維持することは難しいだろう。僕は再びスタートラインに立たされていた。  意外にも焦りはない。組織への入会が許されるまで、もう一度やり直せば良いだけだ。  自宅のあちこちに隠されているカメラを見つけたので、上手くいきそうな予感はしている。
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