ストーキングクラブ

2/10
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 出掛け支度をした僕は、コンビニへと向かう。ATMにキャッシュカードを差し込むと、あっさり現金が引き出せた。1日の上限までしか引き出せなかったが、それでも自分で預けていたよりも多額の現金が、僕の手元にはある。  ATM脇の封筒に震える手元で現金を詰めると、自宅に戻った。どうにかして残りの金を自分のものにできないかという想いが、頭の中で渦巻く。  調べてみると、返還請求されたとしても、知らずに使った分までは返す必要はないのだそうだ。今回のケースに当てはまるかは分からないが、いざ裁判となれば、弁護士が妙案を授けてくれるに違いない。返せと言われても、使ってしまったと言い張れば良いのだ。とはいえ、一気に使い切るには金額が大きすぎる。  まずは、数字を札束に変えてしまうべきだと思った。現金ならば、追跡も難しいだろう。問題は一日の出金上限だ。全額を引き出すまでに時間が掛かり過ぎる。いつ届くか分からない返還請求より先に、現金化を終えないと意味がない。  窓口で手続きすれば上限なく出金できるらしいが、迂闊な行動は禁物だ。突然大金を引き出したいと言えば、行員が怪しまない筈がない。僕の口座への振込手違いが発覚すれば、そこで終了だ。  何か良い手はないかと考え、銀行口座を増やそうと思った。複数口座に振り込んで分散すれば、1日の出金上限も大きくなる。毎日、金を引き出し続ければ良いだけだ。その程度の手間なら惜しくはない。  だが、現金で溢れた部屋を想像してみて、その方法は断念した。空き巣に入られたら、火事が起きたら。そういった不安を抱え、現金のお守りを続けるような生活には興味がない。  とにかく多くの口座に分散してしまおう。そう考えた僕は、朝まで掛けて、ネット銀行、証券、FX、暗号資産といった口座を片っ端から申し込んでいった。返金を求められても、運良く追跡を逃れた口座があれば、残高は手元に残る。  具合が悪いと嘘をついて、休ませて欲しいと職場に連絡を入れた。昨夜は一睡も出来なかったし、金のことで頭が一杯で、仕事など手に付くはずもない。  出勤しない代わりに、銀行をいくつか回って新たに口座を開いた。ネット経由とは違い、足を運べば口座は即日開設できた。自宅に戻ると、開設した口座に金を振り込んでいく。  振込にも一日の上限額があるのだと知り、苛立つ。ひとつの口座にまとめられた大金を早く分散させてしまいたかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!