ストーキングクラブ

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 続々と届く口座の開設通知。それらに金を振り込んでいった。僕の不安をよそに、金を返せという連絡は一向にない。  職場には、休みの連絡を連日入れていた。数日後、応対した上司がややこしい説教を始めたので、しばらく休職させて欲しいと申し出た。まだ、退職まで踏み切る勇気はない。上司は渋々応じた。  分散した金は、利子という形で金を産むはずだが、生活を維持するには十分な額ではない。大金を持っているというのに、手を付けずに怯えている日々が、だんだん馬鹿馬鹿しく思えてきた。  まずは、株を始めてみようと思った。とはいえ、初めての経験なので少額からだ。失敗しても利子で補填できるので問題はない。  全く知識のなかった僕は、適当に銘柄を選んだ。所詮、見えない未来を予想する博打だ。裏情報でもない限り、確実に高騰する株を言い当てることなどできはしない。どれを買っても同じ筈だ。  だが、選んだ銘柄の株価はことごとく高騰した。それらの会社には、必ずと言って良い程、好材料が出るのだ。政府の認可が下りたり、大型契約が成立したり。ひとしきり値上がりしたところで売却すれば良い。簡単なものだ。まるで、僕が選んだ銘柄にだけバブルが再来しているかのようだった。いつの間にか、大金を投じて大勝負ばかりするようになっている。負け知らずなので当然だ。  あまりにも上手くいくので、為替や先物、外国株、暗号資産やギャンブルにまで手を出してみたが、それらの結果は散々だった。駄目だと分かれば、すぐに手を引く。なにしろ日本株さえ売買していれば、簡単に儲けを出せるのだから。  好調は続き、やがてそれは、自分の才能であるという確信に変わっていった。
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