ストーキングクラブ

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 会社には、とっくに退職願を出していた。もはや、誰かに使われて働くことに意味は見出せない。長く住み続けていた狭い賃貸の部屋からも引っ越した。元手は十分にあり、ローンを組む必要もないので、近所に売り出されていた家を一括で購入した。交通の便が良い立地ではないが、慣れ親しんだ土地であり、滅多に出物がないという広い敷地が選んだ理由だ。  引っ越して日も浅い頃、道路敷設の話が舞い込んできた。土地を譲ってくれないかと持ちかけられる。購入価格の倍近い額が提示されたので、契約書に判を押した。  僕は、自分の新たな才能を見つけた気がした。試しに、都心の小ぶりなビルを一棟購入してみる。空き室の目立つビルだったので安く売り出されていたが、すぐに改善するという予感があった。  空き室はあっという間に埋まった。政府機関の施設が近くに移設されると決まり、周辺のオフィスは関連する企業で埋め尽くされ始めていた。僕のビルも家賃収入が倍増したことで、手放せば大きな売却益が得られる物件に成長した。  9桁だった資産の時価総額は、10桁の中盤に差し掛かっていた。今ならば、振込先を間違えた相手に元本をそっくり返金しても構わない。いや、むしろ利子を付けて返したいぐらいだ。僕の才能が見出されたのも、あの振込のお陰なのだから。
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