ストーキングクラブ

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 次の日から、観察対象の情報が届くようになった。すべての情報は、専用アプリを使って確認する必要がある。  対象者毎にプロフィールが紹介されており、それを見れば、対象に選ばれてからの簡単な経緯を知ることが出来た。彼らの日々の活動は、カメラで記録された動画で確認できる。観察対象の周りには、自宅だけでなく、職場や車、旅行先のホテルに至るまでカメラが設置され、常時誰かが張り付いて、移動風景も記録されていた。それらは、年、月、週、日といった単位の動画に編集され、彼らの活動を短時間で確認出来るようになっていた。もちろん、編集される前のライブ動画も見ることができる。    僕の生活ぶりも同じように誰かに見られていたかと思うと、気分は悪かったが、今の財産を築く為の代償だと受け入れるしかない。過去の観察記録へのアクセスも許されているようなので、自分の記録を探してみたが、辿り着くことは出来なかった。  人の私生活を覗くのは、良い趣味とは言えないが、毎日動画を確認していくうちに、観察対象への興味は高まっていった。  観察が進行中である数人の動画を毎日追っていたが、そのうちの一人の女性が特に気になっていた。当初、色気のないあっさりとした女性だと思っていたが、その生活の変わりぶりには目を見張った。  それまで勤めていた会社を辞めると、美容医療で全身に大胆な改造を施した。エステやスポーツクラブ、習い事にも通い始め、衣食住に金を掛けていく。こういうのが脱落者の典型パターンかと思って観察していたが、そうではなかった。  毎日を自分磨きに費やしていた彼女は、瞬く間に周囲から持て囃される女性へと変貌していく。僕がやったような株や不動産といった投資には手を出さず、手に入れた金をすべて自分に投資していた。  生まれ変わったとも言える彼女は、自分磨きの過程で知り合った女性達に連絡を取って、一緒に店で働いてみないかと誘った。  彼女が経営を始めた高級クラブは、すぐに客で埋まるようになり、盛況を続けた。組織の構成員が、金を落としているのもあるだろうが、店の雰囲気も悪くなかった。働く女性達は、街を歩けば誰もが振り返るような美貌の持ち主ばかりだ。だが、経営者である彼女からは、明らかに飛び抜けたオーラが放たれていた。客の大半は、彼女を目当てに通っている様子だった。
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