ストーキングクラブ

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 観察されていることさえ対象者に明かさなければ、接近は禁じられていないので、僕も店に足を運ぶようになった。会うたびに輝きを増していく彼女に僕の心は惹かれていく。だが、深入りするつもりはない。自分の私生活を、誰だか分からない人々に晒すつもりはなかった。  適度な距離を保ちながらも接触する機会が増えるうち、次第に彼女とも打ち解けた仲になった。  ある日、店から帰ろうとする僕を、彼女が追ってきた。相談があると言って、近くの静かなバーへと僕を誘った。店の客は疎らだ。席についた僕は、入口から目を離さなかった。誰か入ってくるとすれば、おそらく組織の撮影担当だ。だが、それきり入ってくる客はなかった。  ストーキングされていることに彼女は悩んでいる様子だった。店を訪れた客が、他人では知り得ない、彼女の個人的な事柄を耳打ちしたのだという。調べると、自宅に盗撮カメラが設置されていたそうだ。  それなら僕も知っている。業者がカメラを発見する瞬間が、編集動画に記録されていたのだ。1台撤去されたとしても、残った数台のカメラが映像を記録し続けていた。  タチの悪い組織の誰かが、彼女の気を引こうとでも考えて、動画から得た情報を話してしまったのだろう。迷惑な奴もいたものだ。  気味が悪いから引っ越したいので、安全な部屋を紹介してくれないかと相談を受ける。彼女には、不動産業を営んでいると話していた。  いくつか保有しているコンドミニアムの中に、空き部屋があった筈だ。家具や家電は揃っているし、セキュリティも万全だからと言って、彼女に勧めた。  その日から、彼女が自宅で過ごす姿は映されなくなった。店で働く姿や、買い物姿などは、これまで通り確認することが出来る。それらが観られるだけで、僕は十分だった。  数日後、彼女が男性と出会うシーンが編集動画で配信された。完璧とも言える容姿と、屈託のない笑顔、社会的地位も高く見える男に、彼女が惹かれているのは明らかだった。残念ではあったが、彼女が幸せを掴む過程を見守るのも悪くはない。  日を追うごとに、映像にその男が現れる頻度が増えていく。衝撃が走ったのは、彼女に貸したコンドミニアムの室内が映ったからだ。男は、カメラを隠し持っていた。その日から、自宅で寛ぐ彼女の姿が再び記録されるようになり、男が訪れる度にカメラの数も増えていった。  男は、組織が雇った人間なのだと知らせてやらなくては。組織に弄ばれている彼女を救いたいという衝動が芽生えていた。
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