ストーキングクラブ

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 銀行口座の残高を確認すると、9桁の数字が並んでいた。先頭の数字も1などではない。  6桁目から始まる数字には覚えがある。それは、僕が知るおおよその残高と一致していた。だが、7桁より上の数字にはまったく覚えがない。画面上の表示は、数億の金が残っていると言っている。   銀行サイトからログアウトし、再度ログインし直してみたが残高は変わらなかった。取引履歴を確認してみると、数日前に入金があったと判った。振込み人は不明だ。  入社3年目の会社員である僕の口座に入っている額としては、あまりに高額だった。今の会社で定年まで懸命に働いても、得られる収入は半分にも満たない筈だ。  誤って振り込まれた金だろうと、僕は結論付けた。別の誰かが受け取る予定だった金が、何かの手違いで僕の口座に振り込まれたのだと。口座番号が一桁違っていただとか、電算処理にエラーが発生しただとか。  誤って振り込まれた場合、どのような結末が待っているかを調べてみると、「組戻し」という処理を経て、元の持ち主に返金されることが判った。いくら返さないと粘ってみても、不当な利益であることが裁判で認められれば、返金は免れないらしい。どのみち僕には金が残らないこととなる。  夜更けにPC前で呆然としたままの僕は、目が冴えたまま眠りに就くことも出来ず、何度も画面を見返していた。
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