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パン、と破裂音がして彼の脳天に穴が空く。衝撃で尻餅をつく形で後ろに倒れ込む。重たいものが床に落ちる音がしたのは、彼の意識がもう遠いところに逝ってしまったからだろう。
ああ、なんて。彼らしい最期だろう。椅子も譲り、独裁者を殺したという手柄も譲り、名誉もなく。一体彼は何を得たと言うのか。私は英雄などではない。この期に及んで、やるべきことはやったと言う体で、彼の暗殺に失敗したと報告するつもりでいたのだ。そのつもりでいたのに、彼を殺したことで妻子の命を長らえたことに安堵してしまった、小心者の自分に腑が煮え繰り返る。真に英雄の称号が相応しいのは、彼だけだったのに!
やがて朝日が私の罪を明らかにする。人々はそれを罪とは呼ばず、彼には贖いが必要だったと称えるだろう。内政を安定させ、味方のいない国際社会で上手く立ち回らなければ、彼と同じ道を辿るだろう。いつの日か彼と同じ道を進む私の額にも銃口が突きつけられるだろう。
幸せな余生というものを想像する。一線を退いた一国の主はどこへ向かうだろう。司令室の椅子を退いた後にも座る椅子があるといい。たとえば南国の砂浜に置かれたデッキチェア。グラスには結露ができている。冷たい飲み物を飲み下し、沈みゆく夕日を眺めながら目を閉じる。彼に本当に相応しい椅子は、きっとそんな椅子だった。だが、そうはならなかった。彼はこのゲームに敗れ、この椅子から転げ落ちて生を終えた。
司令部の椅子に座る。足元に彼の遺体が転がっている。きっとこの椅子は無数の屍の上に成り立っているのだろう。自身がそれらの上に立つに相応しいとは、到底思えなかった。それでも、椅子は私に回ってきてしまった。この椅子の上に座っている間にするべきことは何だ。独裁者となり得る上官に明け渡す前にできることは。国民のためにできることは。
彼の汚名を雪ぐことができるのは、私だけだ。いつか無数の屍のひとつに成り果てるまで。座らされた椅子で銃口を突きつけられたまま、抗い続けよう。いずれ暗君として歴史に刻まれるとしても。いつか彼のように、真の英雄となれるまで。
記号として語られた、ありふれた男の話。どこにでもある、政権転覆前夜の話だ。
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