第1話 契約書にサインしたら……

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第1話 契約書にサインしたら……

「何じゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」  だ・ま・さ・れ・たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!  俺、船頭牙(せんどうきば)は、見渡す限りの雪原で立ち尽くしながら頭を抱えていた。  所持品はなく、身一つ。身に纏っているのは、春夏ようのうっすい学生服だけ。超軽装だ。  そんなクレイジーな格好をしている俺は、新たな世界に目覚めようと苦難に飛び込んだわけでも、人気取りの為にアホなエピソードを一つ作ろうとしたわけでも、この世に絶望した自殺志願者などではない。  つい先程までありふれた日常を過ごしていた一般人だったのだ。  だというのに、なぜか今は雪原にポツン。  一体なぜにと考えて思い浮かべるのは、こうなる前に出会った人間。  学校で一日授業を受けて、さあ帰ろうとしたところで出会ったのは怪しげな人物。  分厚いコートにすっぽりを身を包み、マスクで顔を覆った男だか女だか分からんその人間は、牙を捕まえて強引に契約書にサインさせたのだ。  そしたら、なんか雪原に身一つで放り出されたというこの現状。  いや、あっしも抵抗したんですよ?  こいつやべぇぇぇぇぇぇとか思いながら、逃げようとしたんですよ?  でも、手ぇ放してくんないし、無言の圧力が怖かったし。  しょうがなかったんだよ。あの場はああするしかなかったんだもん。  殺られるって思っちゃったんだよ。チビリそうだったんだよ。悪いか。  ようするに、……俺ヘタレです。すいません。  誰に謝ってるんだ。  しかし、もう一回叫ばせてもらっていいだろうか。  俺、さっきは通学路。  でも今、雪原。 「何じゃこりゃぁぁぁぁぁ!」  叫ぶ。俺は力の限り叫ぶしかない。  だってそうだろ。  意味不明だし。ありえないし。  なんでこんな所にいるんだよ。 「っくしょい!」  さむい。やばい、死ぬ。つか、雪原吹雪いてね?  北の方で、季節外れの大雪が降ってますとかってアナウンサーが言ってるのをニュース見て「へー、大変そうだなー」とか思ってたけど、想像してたより何倍も大変そうだわ! 他人事でごめんなさい。人、死ねる。  あと数分もしないうちに人間の凍死体が出来上がるよ!  家、どっか建物はないのか?  避難場所をさがして周囲を見回すが。  ない。まっしっろ。何もない。  白。ホワイト。ホワイ? 「っくしょん!」  ボケてる場合じゃねぇ。震えが止まねーし、体が何か寒さを感じなくなっていってんぞ。  本格的にやばくなってきた。  ここで留まっていた所で、凍死する未来しかない。  生き延びたかったら、とにかく進まないと。  ザクザクザク……。  ザクザクザク……。    ザク……   ザク……        ザク……    ザ……ク…  バフッ! 「っぶねえぇぇぇぇ!」  だが、数分もしない内に意識が飛んで、気がついたら雪原ダイブしてた。  俺、一時的に多分死んでたんじゃねぇ?  雪原に倒れこんだショックで意識覚醒しなけりゃそのままヘブンリーだった。マジで。 「や、やや…え……、おふ……しししう」訳(やべぇ、死ぬ)  舌が回らない。歯がガチガチうるさい。体に力が入らない。  本格的に、やばくなってきた。  おいおい冗談じゃねぇ。こんなわけ分かんねえまま、お陀仏かよ。  夢じゃなく。現実に?  死ぬ?  死ぬの?  もしかして俺死んじゃう?  こんないきなりワケのわからない状況に放り出されて? 「ふざけんな」とか「いい加減にしろよ」とか、普通は怒るとこなんだけど。  何かそれすらも考えるのが億劫になってきて。  あっ、これ……もう駄目だ。とか、思ったが瞬間意識がふっととんだ。  おそらくその数秒後に倒れ込んだんだろうけど、その感覚はもうなくて……。  …………。  ……………………。  音が消えていく。  真っ白な、自分の呼吸する音がなくなり足音がなくなり、世界で唯一の音が消えていき、静寂になる。  世界は無音になった。  もう終わる。すぐ終わる。  死ぬ間際に考られた事なんて、きっと大した事じゃない。  俺、死にたくない。  きっと、それだけだ。  ……。  …………。  ギュムッ。 「やだ、何これ、何か汚いもの踏んじゃったわ」  げしげし。 「だれがこんな所にゴミ何て捨てたのかしら」 「それ、人間」 「えっ」  いや、まだ死ねない。  なぜなら……、  死ぬ間際にめっちゃ可愛い女の子の声が、幻聴が聞こえた気がした。  絶対、したから!
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