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第4話 あ、これ、まさしくナイトメアだ
自分の頭の正気度を窺う前に、ここが俺の知ってる現実なのかと疑いたくなった。
「俺、さっきまで平和の国の東京ってとこにいたんだけど……」
さてはここ現地じゃないな。
俺の秘められた魅力ある多大な才能に気が付いた女神様が、俺を異世界転移なんかさせてくれちゃってちょと常識が通じない場所にでくわしちゃってるんだな。
そう思った。
でも違った。
詳しい事は、水菜が説明してくれた。
「ここは北海道よ」
異世界どころか、国外にも行ってなかった。
え、何? 契約書を書かされたり思わせぶりな空気作っといてここまだ現実世界だったの?
やだー。
じゃあいつ異世界行く。
いつ俺異世界救っちゃう?
いつやるの?
今でしょ!
「でもでも、何か変なバケモンいたぞ」
異世界だよね、無双でチートだよね。ね?
……なんて、俺は扉の方をさして抵抗するが。
「あれは、ナイトメアよ」
理沙がツインテールを思いっきり揺らして顔をそらした。
扉の方を見つめたまま動かない。
眉根が寄ってて、おもいきり不機嫌そうな表情してだ。
え、何この唐突な不機嫌さん。
俺、何か怒らせるような事言ったか?
「貴方が見たものはナイトメアという存在。でも元は、人間だった。理沙の、友達よ」
「……」
あ、あー。
ああ、なるほどねー。
ごめんなさい。
いや、相変わらず何が起こってるのかは分からんけど。
しかし、こちらの動揺を置いて、水菜さまは淡々と状況説明再開だ。
「とりあえずもう一度見て」
「ちょおいよっ」
え、アレをもう一度?
慌てすぎて制止の声がおかしくなった。
水菜が扉を開けてしまう。
ついさっき彼女が説明した、俺が一度見たもの。
ナイトメアと呼ばれる存在が部屋の中にはいた。
まず目につくのがコウモリのような黒いツバサ。そして成人二人分の身長、でかい。そしてゴツゴツとした浅黒い皮膚。頭部にはツノが二本。
「うわぉ」
んで、ぎょろりとした赤い目。
「悪魔?」
っぽいな。イメージ的に。
何か邪悪な魔王城とかの尖塔付近に置き物として配置させてて、人が近づいたら動き出す系のそんなやつだ。
こんなもんいきなり見せられたら、びっくりして心臓が口から飛び出ちゃうかと思っただろ。
異世界来ちゃったかと勘違いもするだろ。
俺おかしくない。
普通だって。
「グ ル ア ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ !!」
視線の先では、雄叫びを上げる悪魔っぽい生物、ナイトメア。
「暴れ出したぞ」「奴の動きを封じろ」「支援は」「いま行きます」
そして飛び交う人の声。
あ、人いたのか。
ナイトメアとやらのインパクトが強すぎて、視界に入ってなかったわ。
皆、それぞれ思い思いの武器を手に取って、ナイトメアと戦っている。
剣でザクザクしたり、銃でバンバン撃ったり、杖から何か炎が飛び出たりしてる。
「ファンタジー?」
異世界には言ってないけど、光景がファンタジーしてる。
俺が巻き込まれたの北海道ファンタジー。
いや、馬鹿にしてるわけじゃねぇよ。
いいとこだよな。なんかイメージ的に開放感あって、のびのびしてそうで。
予想よりは普通で、下げられた分よりは普通じゃなかった光景を前にして、俺はこの現実をなんて受け止めれば良いのか分かんない。
そんな戸惑いを抱えていると不機嫌そうな美女が話しかけて来た。
「ねぇ、あんたは何ができるの?」
「は?」
理沙ちゃん何言ってんの?
どうしてそれを一般人の俺に聞くのかな?
「ゲートからの増援なんでしょ。とてもそうは見えないけど。っていうか、学生服だし、何であんな所で倒れてたのよ」
「いや、増援って何ですかい?」
「とぼけないで。とてもそうは見えないけど、あんたが手伝ってくれなきゃもうここは……」
だから、勘違いだ。
ていうか、「とてもそうは見えない」二回言ったな。どんだけ俺見くびられてんの? でも実際もそうなんだけどな。悔しい!
何だか知らんが、俺はただの一般人。
あんなバケモンと戦えるような人間じゃない。
だから、そう言おうとたのだが……。
「負ける」
ふいに水菜が低い声を出した。
その直後。部屋の中で事態が急変した。
閃光、爆発。
中でナイトメア相手に戦っていた人達の姿が飲み込まれていく。
その爆発にのみこまれてあわやとなりかけたがが、俺は水奈に床に押し倒されていた。
だが、感謝の言葉を述べられるような余裕は今の俺にはない。
「な……な……」
何が起こった?
目を開ければ、部屋は丸焦げになっていた。
部屋の内部には人が倒れている。
身動きしているから、生きてがいるだろうが、大怪我していた。
早く病院に見せなければならないだろう。
いや、それよりも。
周囲を見回す。
「いったぁ……」
離れた所で理沙が倒れている。ボロボロだ。
だが、目立った傷はない。煤けているだけだった。良かった。
部屋の中にいた化物……ではなくナイトメアは、なぜか俺達をロックオンした様だ。
こちらに視線を注いでいる。
やべ、鳥肌たった。
ライオンに睨まれた子ネズミの気分。
「理沙、逃げましょう」
「う、わ、分かった……」
水菜は立ちあがって手を差し伸べてくる、情けないとか気にする間もなく俺は彼女に立たせてもらった。
「貴方、一般人?」
そして首を傾げて問いかけられる。
成すすべなくかばわれた俺の醜態で気づいたらしい。
その通りだよ。
何の間違いか知らないけど、ここに来ちゃった。
「グ ル ア ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ!!」
のんびりしてる暇はなさそうだ。
ナイトメアが雄たけびを上げた。反射的に身がすくむ。
先程の爆発をまた起こされたら、どうなるか。
想像しただけで腰が抜けそうだった。
「理沙」
「分かったわ!」
だが、そんな臆病虫になっている俺とは違う彼女達。
二人の美女はそれだけで通じ合ったようだ。
理沙がスカートをひらめかせて中から、銀色の鞭のような物をとりだす。
どっから出してんだ。
ていうかどうやって格納?
「やあぁぁぁ!」
そして理沙はなんと、気合の声とともにナイトメアへ走っていくではないか。
「お、おい」
そんな事して大丈夫なのか。
狼狽して声を上げる俺に、水菜が「大丈夫」と小さく述べる。
そして……。
「貴方は、こっちを向いて」
俺は、水菜に両頬を掴まれて顔を向けられた。
どこに顔、ってそこにだよ。
可愛い美少女と見つめ合いっこだよ。
って、え?
何この状況。
「貴方を守るわ」
突然に、何の脈絡もなく、向かい合った水菜が顔を近づけてくる。
えっ! とか、え……? とか、ちょまっ!! とか、そんなリアクションしてる暇なかった。
あっ。
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