第5話 二度あることは三度ある?

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第5話 二度あることは三度ある?

 キッスだ。  と、思った瞬間、口の中に鉄の味がした。 「むぐ!?」  唇、噛まれた!  なぜに! 「思ったより普通」  水菜は不機嫌そうだ。  何か残念がられた!  美少女と接吻できた喜びよりも、驚愕の方が勝っている。  え、なにこれ、何が起きたの? 奇跡?  この年齢=彼女いない歴の牙さんに春が訪れちゃったの?  まっさかー。  だが、脳みその中をピンクでいつまでも染めていられるほど、現実さんは優しくない。 「逃げるわよ!」 「ええ」  理沙の声が飛んできて、水菜が返答。  俺は水菜に手を引かれて逃避行。  振り返ればしばらくして理沙も後ろからついてくる。もちろん当然ナイトメアもだ。  ええぇ、もう何これ。  死にかけたり、変なの見せつけられたり、次から次へと。  未だに何の施設なのか分からない建物の中を全力疾走していくのだが、その努力が報われるのが難しくなってきた。  逃げ切りたい。逃げ切らせてください。  頼んます! 「グ ル ア ァ ァ ァ ァ ァ!」  いやぁ、無理ですよねぇー!  割と近く、すぐ背後から咆哮が聞こえて、背筋が凍る思いした。  冷や汗がぶわぁぁぁ。  やべぇ、三途の川とか走馬燈とか見えちゃったかも。  俺死ぬの?   死にかけてる!?  一度ならず、二度までも!?  どんな厄日だよ。  幸運仕事してねぇじゃねぇか。  四つ葉のクローバーさん!  だが、混乱真っただ中の俺とは違って、美女達は冷静だ。  背後をチェックした水菜が、声を張り上げる。 「この、距離ならもうしばらくは……右に曲がるわ」 「オッケー!」  前方通路が左右に分岐している。  俺達は水菜の言うとうり右へ飛び込んだ。  後ろで理沙もついてくる。 「ダメ! そろそろ追いつかれるわ!!」  理沙の切羽詰まった声に反応して水菜は立ち止まる。  え、正気?  戦うつもりなん?  信じられない思いでいると、理沙が追いついてきた。 「交代」 「仕方ないわね」  そして二人は、立ち位置を入れ替える。  階段の前、踊り場。  水菜は下り階段の前で待ち構える。 「おい、良いのかよ」 「黙って見てなさい。水菜なら大丈夫よ」  こんな状況で俺にできる事などない。  分かっている。  分かってはいるのだが、だからといって心配しないなんてできるわけないだろう。  ほどなくして、ナイトメアがおいついてきた。  おぞましい体をした化物。  そいつが水菜を、叩き飲めず光景を想像するのだが……。  水菜は突進してくるナイトメアめがけて、飛び上がった。 「ふっ……」  壁に足をつけて、天井へと駆け上がっていく。なんだそれ。格好いい。  けど人間業じゃない。上空へ飛んだ水奈へ、払いのけようとしたナイトメアの腕が迫る。 「はっ……!」  しかし、彼女はこれを蹴り一つで撃退した。  達人技だった。  とても普通の少女にできる事とは思えない。 「嘘だろ」 「嘘なわけないじゃない。水菜はエリートなんだから。ここにいると危ないわね。行くわよ」 「お、おい。おいてくのか」 「すぐ来るわよ、水菜なら」  その場を離れていく階段を上り終え、廊下へ。  理沙と俺が話をしている間にも水菜は動きを止めていなかった。  ナイトメアの頭上に着地した彼女は、肩へと移動。太い首に両足を巻き付けて締めあげた。  あんなでも一応生物らしく、呼吸が阻害されて苦しげだ。  水奈はその体勢のまま、ナイトメアの顔を覗き込む。 「あなたにも苦しみを」  そして、彼女は、そんな言葉をひそやかに呟く。  ナイトメアは先ほどとはまるで比べ物にならないぐらい、のたうちまわり始めた。 「な、何があったんだ一体」  一部始終を見ててもさっぱりわからん。  そして彼女はダメ押しにバケモノの顔めがけ、懐からスプレー缶を取り出して吹き付けた。 『グ ル ア ァ ァ ァ ァ ァ!!』  水菜が苦しく異形の頭部を思い切り蹴りつけて、階段から落っことした。  役目を終えたらしい彼女がこちらへやってくる。  ナイトメアは自らが落ちた階段下で、目の前の人間たちのことなどかまうことなく、四肢を振りまわし、もがくように建物を壊しながら暴れまわっていた。 「さすが、水菜ね。私も自分の分、やらなきゃ」  そのバケモノへと理沙は一歩分だけ距離を詰める。 「時よ。歩みを止めなさい」  そして彼女が言葉を放つと同時、ナイトメアはぴたりと動きを止めてみせた。  何だ。  今一体何をしたんだ。 「さ、逃げるわよ」  俺の疑問を置き去りにして、再び、水奈を先頭にしての逃避行が始まった。  というか俺ら、どこに向かってるんだ?  外に向かっているのかと思ったが、そうでもないようだし。  ナイトメアを巻きながらしばらく走ったその後は、何か頑丈な造りの地下室に逃げ込む事となった。  逃走中の記憶なんて、あんまないけど。途中、理沙が廊下についてる備え付けの装置を押して、警報を鳴らしてたのは覚えてる。 「そろそろいい加減に話してくれ」  へたれこみながらも、俺はさっそく二人に説明を要求した。 「分かった、何から聞きたい」 「俺に任せると絶対俺が聞きそびれる事があるから、アンタに任せる」  自慢じゃないが目の前の少女よりは頭が悪い自信がある。 「ねぇ、何で私には説明を求めないのよ」  だが、そんな俺の言葉に理沙は不満そうだ。  水菜の方が優秀そうだから、だよ。  実際戦闘ではすごく優秀だったし。  けれど、そんな風に正直に答えるほど俺の頭は馬鹿ではない。 「何となくだ」 「何となくぅ?」 「理沙は扉の方警戒していて。後、事情の説明も」 「……分かったわよ」  言ってるそばから次から次へと部屋の中に駆け込んでくる人達がいる。警報を聞いて避難してきたようだ。  理沙はその人達へ事情を説明していっている。 「とりあえず、私たちの所属する組織について話すわ」 「おう」  水菜たちのいる組織の名前は抗体という名前らしい。  抗体の目的は世界中にばらまかれたナイトメアウイルスを駆逐するため。  ナイトメアウイルスはすでに世界中の人々が罹患しているらしい。  ナイトメアウイルスに感染している保持者の事をキャリアと呼ぶ。  キャリアが強いストレスを受けると、体内に潜在しているウィルスが活性化し、ナイトメア化……俺が見たあの化け物の様な姿……してしまうらしい。 「ようするに正義のヒーロー的な組織ってことか」 「……貴方達からすれば。それで私達は、先ほど見た強力な個体ナイトメアに手を焼いていて、別の所に応援を求めた」 「だけど、来たのは普通の俺、と。……何で?」 「抗体組織はまだ少ない、だからゲート転移術を使って被害の出た各地にエージェントを派遣しているのだけど……」  その応援が来るはずの場所に行ってみれば俺が行き倒れていたらしい。  俺はとりあえず、雪原ワープする前の事を話してみるが、水菜にはそのような契約書片手に歩き回る怪しい人物に心辺りがないようだった。 「それと、私達は人間ではないわ」 「ふぁ?」 「ふぁ……。 って?」 「何でもないです。続けてください」  思わず出ちまったんだよ。人間にはそういう瞬間があんだ。掘り返さんでくれ。  そんな小首かしげて心底不思議そうにしないで。 「ナイトメア化しないための抗体を打ってるの。特殊なものだから見かけは人間のように見えても、中身は別物」 「…………はぁ」  なるほど、いやでも。水菜。  そういう顔すんなら、そういう事言うなよな。自分から言っておいて。  そう言う事言ってるとなぁ。俺だぞ、サービスしちゃうぞ。  わずかに悲しそうな顔を見せる彼女に、俺は本音をこぼしちゃう。 「別に美女なら俺は何でも良いけどね」 「美女?」 「そこで疑問か」  なけなしの善意は伝わらなかったようだ。  美女に面と向かって美女とかいうのかなり勇気いるんだぞ。  何言ってんの機嫌とってんのキモイバーカ死ね、とか言われないか心配になって俺のハートはドキドキマックスなんだよ。  で、話がそれたんで内容を戻そう。  抗体を打った人間は異能が使えるらしい。  水菜は相手の精神に苦痛を与える能力。  理沙は相手の時間をある程度止める能力を。  そして、その異能を使える人間をさらに選抜した者をエージェントと呼び、彼らにナイトメア化した人間の対処を任される。  ちなみに転移術、ゲートもその異能を活用したものらしい。 「そして、さっきの接吻の事だけど」 「っっ……!」  さらっと何でもないように話題を繋げんな。  普通が故に恋がかなったことがない、純情ボーイに瞬時の適応は無理。 「理沙ともして」 「なばっ!」 「なば……。 って、?」  ワケがあるんだろうけどな。それは分かってるけどな。  せめて先に説明してくれ。
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