君は僕を悪い男にさせる

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見習い軍医の僕に召集令状が来た。 人伝に聞く戦況は芳しくなく、野戦病院任務で無事帰国できるか定かでない。 戦地に旅立つ数日前、精一杯の思い出作りとばかり美久を外食に誘った。 彼女とはお互い子供の頃よりの顔見知りで、両親が親しくする出入り業者の娘だ。 以前の様に潤沢な食材がない中、出すものさえ出せば少し贅沢な食事が出来る店が治安の悪い裏通りにあった。 美久は控えめな性格で平凡な容姿だが艶やかな黒髪に色白な女性。 『待っていてくれ』と将来を約束した言葉を、食事中何度飲み込んだか…その度に僕は酒を注文してしまい、会計時に法外な請求がきた。 愛想の良い店員が強面の用心棒もどきを連れてきた。手持ちの有り金全部を出しても足りない。一旦家に戻り工面すると言っても許してもらえない。 心配顔の美久が化粧室に下がったと思ったら、手に金製の装飾品を持ってやってきた。それは何かの折に換金出来るよう彼女の両親から渡された物だ。彼女は下着に縫い込んで肌身離さず持ち歩いてる、祖母の形見だと言っていたはずだ。 僕が辞退しても彼女は『これを使って』と言って聞かない。 その高価な品を質に差しだされ、店主は満足げだ。 僕は彼女に必ず明日にでもそれを取り返す事を誓った。だが軍の予定はタイトで、その後あたふたと僕は任務先に赴くことになってしまった。
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