君は僕を悪い男にさせる

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酷い戦争だ。負傷者が次々と運ばれてくる。 助かる見込みのない者は死に、ある者には最低限の治療をして又追い立てる様に戦地に送り返す。 心が折れそうになる度に、美久から送られてくる手紙を読み返した。 僕の両親と共に空襲から逃げて疎開出来たと、だから心配しないでくれと。皆で心穏やかに僕の帰りを待っているという言葉は、彼女からの求婚にも思えた。 別れ際のバツの悪い出来事で彼女から見切られてもおかしく無いのに、その温かい一文が僕のメンタルを支えた。 そして僕達軍人のフィジカルな癒しは、激戦の合間に訪れる慰安婦達だった…。 無事終戦を迎え国に帰り家族と美久がいる疎開先に行く前、以前彼女が僕の為に手放した装飾品の行方を追った。 あれを手にして彼女にプロポーズをしたい。その想いに駆られた僕は、感動の再会を迎える為にしばし時を費やした。 あの店を起点に闇市場などを口伝てに巡り、品物の跡を辿った。比較的高価な品なので手にした人も限られ、見つけるのは容易かった。 途中巷で小耳に挟んだ僕の家族の話は、美久の手紙の内容とだいぶ違った。 空襲で彼女は自身の家族と死に別れ、大怪我を負った僕の母の面倒を見ながら、仕事の関係で先に疎開していた僕の父の下へ移動したという。突然不自由な体になった母は大層機嫌が悪く、親身に世話をする美久に辛くあたったらしい。 手紙に彼女の泣き言は、一言も書いてなかった。
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