1 出会い編

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 待ち合わせ場所に行くと優はすでに来ていた。 「待った?」 「いや」 「今日はどこか寄ってく?」  歩き出そうとする私の腕を優が引き留めた。 「何?」 「別れてくれ」 「え、何? 急に?」  付き合いだしてまだ2週間。今が一番楽しい時のはずだ。  優と過ごす時間を積み重ねるたびに、私の中で何かが変わっていく気がした。喜びの感情が表に出るようになった。  そんな気持ちを与えてくれた優にはとても感謝していて、わがままを言ったことはないし、一緒にいて恥ずかしい思いをさせた覚えもない。  心当たりが全くないのに、突然の別れ宣告だった。 「私、どこか悪かった?」 「エミは悪くない。付き合ってみてよくわかったけど、君はとても素敵だと思う」  優しい言葉の中に残酷な言葉を隠している。それはもはや優しい言葉ではない。  胸がナイフでえぐられたかのように痛む。  同級生たちの陰口が鈍器なら、こちらは鋭利な刃物の衝撃と同等である。 「じゃあ、どう……して……?」  優は悩み苦しむ私を見て、深刻な顔になった。 「ごめん……。黙っていようと思っていたけど、すぐに知ってしまうだろうから正直に言う。他に気になる子ができた……」 「乗り換えたいってわけ?」  最低な理由に思わずきつい言い方となり、追い詰められた優は口をつぐんだ。 「ごめん、言い過ぎた……。今の言葉、取り消す……」  悲しいが涙を堪えて平気な顔をした。そういうところが嫌われるのだろうか。 「相手は誰? その子と付き合うの?」 「名前は言えない……。付き合うかどうかも分からない」 「なんで? すぐに分かるって言ったじゃない。私が知っている人だよね? もしかして、浜津さん?」  トイレでその名を聞いてから、なんとなく心に引っかかっていた。 「その名をどうして……」 「え? 当たった?」 「いや、違う」  明らかに嘘をついている。  浜津美乃は私と正反対で自分の気持ちに正直な子だ。  豊かな感情表現で周囲の人間を動かしていく。私にはできないことを、いとも簡単にしてしまう。優が彼女に惹かれたとしたら、それは私のせいかもしれない。 「やっぱり……」 「名前は言わない。迷惑を掛けたくないから」  私が嫌がらせをするんじゃないかと疑われている。それも悲しい。そんなこと、絶対しないのに。 「分かった。別れよう」  優はホッとする顔になった。そんなに別れたかったのかと思うとみじめである。 「じゃ、これで」  優は気になっている子の名前を告げずに去っていった。 「悪いことって重なるのかな」  自分の悪口を聞かされた直後の別離。 「私の周りから人がいなくなる……」  友達がいなくても、優がいてくれれば全部平気だと信じていた。  今日からは、本当に一人ぼっちの下校となった。
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