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待ち合わせ場所に行くと優はすでに来ていた。
「待った?」
「いや」
「今日はどこか寄ってく?」
歩き出そうとする私の腕を優が引き留めた。
「何?」
「別れてくれ」
「え、何? 急に?」
付き合いだしてまだ2週間。今が一番楽しい時のはずだ。
優と過ごす時間を積み重ねるたびに、私の中で何かが変わっていく気がした。喜びの感情が表に出るようになった。
そんな気持ちを与えてくれた優にはとても感謝していて、わがままを言ったことはないし、一緒にいて恥ずかしい思いをさせた覚えもない。
心当たりが全くないのに、突然の別れ宣告だった。
「私、どこか悪かった?」
「エミは悪くない。付き合ってみてよくわかったけど、君はとても素敵だと思う」
優しい言葉の中に残酷な言葉を隠している。それはもはや優しい言葉ではない。
胸がナイフでえぐられたかのように痛む。
同級生たちの陰口が鈍器なら、こちらは鋭利な刃物の衝撃と同等である。
「じゃあ、どう……して……?」
優は悩み苦しむ私を見て、深刻な顔になった。
「ごめん……。黙っていようと思っていたけど、すぐに知ってしまうだろうから正直に言う。他に気になる子ができた……」
「乗り換えたいってわけ?」
最低な理由に思わずきつい言い方となり、追い詰められた優は口をつぐんだ。
「ごめん、言い過ぎた……。今の言葉、取り消す……」
悲しいが涙を堪えて平気な顔をした。そういうところが嫌われるのだろうか。
「相手は誰? その子と付き合うの?」
「名前は言えない……。付き合うかどうかも分からない」
「なんで? すぐに分かるって言ったじゃない。私が知っている人だよね? もしかして、浜津さん?」
トイレでその名を聞いてから、なんとなく心に引っかかっていた。
「その名をどうして……」
「え? 当たった?」
「いや、違う」
明らかに嘘をついている。
浜津美乃は私と正反対で自分の気持ちに正直な子だ。
豊かな感情表現で周囲の人間を動かしていく。私にはできないことを、いとも簡単にしてしまう。優が彼女に惹かれたとしたら、それは私のせいかもしれない。
「やっぱり……」
「名前は言わない。迷惑を掛けたくないから」
私が嫌がらせをするんじゃないかと疑われている。それも悲しい。そんなこと、絶対しないのに。
「分かった。別れよう」
優はホッとする顔になった。そんなに別れたかったのかと思うとみじめである。
「じゃ、これで」
優は気になっている子の名前を告げずに去っていった。
「悪いことって重なるのかな」
自分の悪口を聞かされた直後の別離。
「私の周りから人がいなくなる……」
友達がいなくても、優がいてくれれば全部平気だと信じていた。
今日からは、本当に一人ぼっちの下校となった。
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