4 ライブ編

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 家に帰ると、福猫に話を聞いてもらった。 「私のせいで、明日のライブは大失敗かも」  落ち込む私に、福猫は、「仲間を信じなさい」と、事も無げに言った。 「今回ばかりは、無理だよ……」 「どうして疑う?」 「だって、バンドのファンが全員来ないって言ったんだよ。観客のいないライブなんて、どうあがいたって成功にならない」 「それは、本当に全員なのかい?」 「そうよ。ものすごい枚数のチケットが返却されちゃった。たぶん、客席に人がいないと思う。これからチケットを配布しようって、魁君たちは言っていたけど、もう間に合わない。私もチケットを預かってきたけど、今からお客様に配るわけにもいかない。明日は朝から会場に行かなきゃならなくて、配布の時間なんてとれない」  手元には、割り当てられたチケットの束がある。知り合いには、すでに声掛け済み。今から受け取ってくれる人を探せと言われても、頭を抱えてしまう。 「お父さんに相談してみてはどうだい?」 「それは……やだな」 「どうして?」 「恥ずかしいもの。明日のライブも、実はまだちゃんと話していないんだ」  店にポスターを貼って、チケットも置いていたが、それは世話になった音無魁のためであり、娘が出るとは思っていない。  毎日の練習は、クラブ活動で遅くなると説明していた。 「恥ずかしいなんて、言っている場合じゃない。入れ物と人はある物使えだよ」 「なにそれ」 「有名な故事を知らないのかい? 呆れるね」 「立っている者は親でも使え、だったら分かるけど」 「同じようなものさ。手近にあるものを使えってこと。時間がないんだから、親でもなんでも利用しないと。どうでもいい感情のために、明日の本番を台無しにしてはいけないよ」 「どうでもいいって、酷い!」 「どうでもいいだろ。今日まで練習してきたのに、いっときの感情で、全てを水泡に()す? 何が大事かよく考えるんだね」  福猫に叱られて、目が覚めた。 「そうだよね……。恥ずかしいなんて言っていられないよね……。みんなのピンチなんだから……」  私は、決意した。 「私、お父さんに相談してみる」 「それがいい」  チケットを握りしめて、父の部屋に行った。  帳簿を付けていた父は、「どうした?」と、手を止めずに聞いてきた。 「お父さん、聞いて欲しいの」 「え? 急に改まって、なんだ?」  父は驚き、手を止めてこちらを見た。 「なんか、怖いな。変なことを言うんじゃないだろうな」 「これなんだけど……」  チケットの束を差し出した。 「魁君のライブのチケットか? 残った分は、返却したと思っていたが」 「これで困っているの」 「なぜエミが困る?」  ちゃんと説明しないと、納得してもらえない。 「私、明日のライブで歌うことになっていて、毎日遅くまで練習していたのは、このためだったの」 「そうだったのか」 「黙っていて、ごめんなさい」 「父さんには教えて欲しかったよ。そうか。クラブ活動って、バンドだったのか。いや、父さんは反対なんかしない。むしろ、エミが活動的になってくれて喜ばしい」  反対されることを恐れて黙っていたんだと、父は思い違いをしている。 「でも、チケットが全然(さば)けていなくて、まだこんなにあって」 「随分と余っているな」  父は、チケットの束に驚き呆れる。 「このままじゃ、お客様のいないライブになっちゃう。何かいい方法はない?」 「うーん……」  父はしばらく考えていた。それから時計を見た。今夜は商店街の定例会の日で、そろそろ出掛けなければならない。 「仕方ないな。ちょうどこれから会合がある。そこでみんなに話してみよう」 「いいの?」 「どうなるか分からなくとも、やれるだけやってみろが父さんの信条。チケットを預かろう。エミは明日に備えて早く寝なさい」 「ありがとう。お願いします」  深夜に行われる会合が、私はいつも嫌だった。しかし、今日ほど遅くて良かったと感謝したことはない。  父を信じてチケットを託した。  部屋に戻ると、福猫が、「話してみるもんだね」と、笑った。 「私の分担はなんとかなりそうだけど、みんなの分はどうなっているかな?」  メンバーの心配をしながら眠りについた。
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