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カーテン越しに射し込む柔らかな朝日を気持ちよく浴びて、ぱっちりと目覚めた。いよいよライブ本番当日だ。
起きてマリーを抱き上げ、「おはよう」と、ほおずりした。
福猫も起きていて、枕元で私を見ている。
「おはよう。良く寝られたかい?」
「おはよう。驚くほどたくさん寝られたみたい。疲れも取れてスッキリした。……そうだ! チケット、どうなったかな?」
父が帰る前に寝てしまったから、結果を聞いていない。
キッチンに行くと、父はすでに起きていて、朝食準備中だった。
「おはよう。チケット、どうだった?」
「おはよう、エミ。首尾は上々だった。エミの歌を聴きたいと、みんなが受け取ってくれてね。家族も誘うからって、複数枚持っていく人もいた。全部なくなったよ」
「凄い!」
それなら他のメンバーがチケットを捌けなくても、最悪空席ばかり目立つことはないだろう。
早くメンバーに明るいニュースを伝えたいと、気持ちが逸る。
「今朝のメニューは、玉子ホットサンドとレモンドレッシング掛けのヨーグルトサラダ。飲み物は紅茶でいいか?」
紅茶を準備しようとする父の手を止めた。
「今朝は紅茶をやめて、ハーブのお茶にする」
喉にいいタイム茶を自分で淹れた。
マリーのご飯は、私が用意する。
「はい、ご飯よ」
マリーが飛びつくように食べだした。カリカリカリと、かみ砕く音がする。
私も、父と食べた。
福猫は、美味しいそうに気を吸っている。
ずっと、父と二人きりの朝ごはんだった。寂しく思ったことはなかったが、こうして一緒に食べる仲間が増えていくと、これはこれで賑やかで楽しい。
父に福猫は見えていないが、楽しい空気は伝わるようで、ニコニコしている。
しっかり食べて、タイム茶を飲み干すと、「いってくるね」と、席を立った。
「しっかり、頑張ってこい。父さんも後でいくから」
「うん」
福猫が黙ってニンマリ笑っている。見るからに、ついて来るつもりのようだ。
無視して家を出る。
会場近くまで行くと、潮兆と三峰清太郎が立っていることに気づいた。
兆は、チケットを握り締めていて、清太郎は、スマートフォンで電話をしている。
「ここで何しているの?」
「おはよう、エミ。チケットを配っているんだよ。開演ギリギリまで、道行く人に宣伝しようと思ってさ。だけど、人通りが全然なくて苦戦中」
ライブ会場として、公民館を借りている。繁華街から少し離れた住宅街の先の丘の上にあり、坂道を上らなければならないという、あまり良くない立地だ。周辺に何もなくて、公民館目的の人しかやってこない。通行人に声を掛けるなら、繁華街まで出ないとならないが、離れすぎると気まぐれに立ち寄ることもなくなる。
清太郎が電話を終えた。
「おお、来たか、歌姫。俺は、ライブを知らない友人に、勧誘電話をかけまくっているところだ。チケットがなくても、当日券で入れるって宣伝している」
「そこまで手伝ってくれているの⁉」
驚きで口が大きく開いてしまった。
「当たり前じゃないか」「魁とエミのピンチを黙って見ていられるか」と、二人が力強くうなずく。
「受付も頼まれている。もし例の連中が来たら、入場を阻止することになっている」
「いわゆる出禁ってやつね」
「そんなことまで、あなたたちに……」
「ライブを邪魔されてはいけないからな」
「本当にごめんなさい……。私のせいで……」
損な役回りを担わせてしまったことに、負い目を感じた。
「エミは悪くない。悪いのは、悪いことをした奴らだ」
「何にも気にするな。俺たちが守っているから、エミはライブに専念してくれ」
「うん……。頑張る……」
彼らの友情に報いるためにも、しっかりやろうと改めて思った。
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