4 ライブ編

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 カーテン越しに射し込む柔らかな朝日を気持ちよく浴びて、ぱっちりと目覚めた。いよいよライブ本番当日だ。  起きてマリーを抱き上げ、「おはよう」と、ほおずりした。  福猫も起きていて、枕元で私を見ている。 「おはよう。良く寝られたかい?」 「おはよう。驚くほどたくさん寝られたみたい。疲れも取れてスッキリした。……そうだ! チケット、どうなったかな?」  父が帰る前に寝てしまったから、結果を聞いていない。  キッチンに行くと、父はすでに起きていて、朝食準備中だった。 「おはよう。チケット、どうだった?」 「おはよう、エミ。首尾は上々だった。エミの歌を聴きたいと、みんなが受け取ってくれてね。家族も誘うからって、複数枚持っていく人もいた。全部なくなったよ」 「凄い!」  それなら他のメンバーがチケットを捌けなくても、最悪空席ばかり目立つことはないだろう。  早くメンバーに明るいニュースを伝えたいと、気持ちが(はや)る。 「今朝のメニューは、玉子ホットサンドとレモンドレッシング掛けのヨーグルトサラダ。飲み物は紅茶でいいか?」  紅茶を準備しようとする父の手を止めた。 「今朝は紅茶をやめて、ハーブのお茶にする」  喉にいいタイム茶を自分で淹れた。  マリーのご飯は、私が用意する。 「はい、ご飯よ」  マリーが飛びつくように食べだした。カリカリカリと、かみ砕く音がする。  私も、父と食べた。  福猫は、美味しいそうに気を吸っている。  ずっと、父と二人きりの朝ごはんだった。寂しく思ったことはなかったが、こうして一緒に食べる仲間が増えていくと、これはこれで賑やかで楽しい。  父に福猫は見えていないが、楽しい空気は伝わるようで、ニコニコしている。  しっかり食べて、タイム茶を飲み干すと、「いってくるね」と、席を立った。 「しっかり、頑張ってこい。父さんも後でいくから」 「うん」  福猫が黙ってニンマリ笑っている。見るからに、ついて来るつもりのようだ。  無視して家を出る。  会場近くまで行くと、潮兆と三峰清太郎が立っていることに気づいた。  兆は、チケットを握り締めていて、清太郎は、スマートフォンで電話をしている。 「ここで何しているの?」 「おはよう、エミ。チケットを配っているんだよ。開演ギリギリまで、道行く人に宣伝しようと思ってさ。だけど、人通りが全然なくて苦戦中」  ライブ会場として、公民館を借りている。繁華街から少し離れた住宅街の先の丘の上にあり、坂道を上らなければならないという、あまり良くない立地だ。周辺に何もなくて、公民館目的の人しかやってこない。通行人に声を掛けるなら、繁華街まで出ないとならないが、離れすぎると気まぐれに立ち寄ることもなくなる。  清太郎が電話を終えた。 「おお、来たか、歌姫。俺は、ライブを知らない友人に、勧誘電話をかけまくっているところだ。チケットがなくても、当日券で入れるって宣伝している」 「そこまで手伝ってくれているの⁉」  驚きで口が大きく開いてしまった。 「当たり前じゃないか」「魁とエミのピンチを黙って見ていられるか」と、二人が力強くうなずく。 「受付も頼まれている。もし例の連中が来たら、入場を阻止することになっている」 「いわゆる出禁ってやつね」 「そんなことまで、あなたたちに……」 「ライブを邪魔されてはいけないからな」 「本当にごめんなさい……。私のせいで……」  損な役回りを担わせてしまったことに、負い目を感じた。 「エミは悪くない。悪いのは、悪いことをした奴らだ」 「何にも気にするな。俺たちが守っているから、エミはライブに専念してくれ」 「うん……。頑張る……」  彼らの友情に報いるためにも、しっかりやろうと改めて思った。
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