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8月31日。蝉の声が遠くなり始めた、夏休みの最終日。
「今年も、この日がやってきましたね」
黄色い声も聞こえなくなり、月が登った頃、草原に一人の老婆の声が響いた。
草原の中に、月の光を静かに反射する墓跡がポツンと佇んでいる。
老婆は毎年、夏が終わりに近づくとこの草原へと足を運ぶ。
そして、いつものように赤い花を添えて、この言葉を投げかけるのだ。
「もう少し、待ってくださいね」
花は美しい。
咲き誇る一瞬の為に己が全てを捧げるその在り方が。
されどいつしか花は枯れる。
地上にあり続けるあり方もまた、美しく、誇らしいと言えよう。
8月31日。長い長い休みが終わろうとしている。
20年前であれば、お前とこの草原を歩いていたのだろうが、残念ながらもう自由に動かせる体がないもんでな。寂しいなら骨で会いに行ってやろうか?あっはっは……。こんなどうしようもねぇ独り言をボソボソ言うのも、もう20回目か。
すまんな。先に逝っちまってよ。
あの頃の俺はきっとどうかしてたんだよ。
一緒に空に昇ろうって、なぁ……
あの頃はこの時間が終わるぐらいならってってなぁ……
もう少しとは言わず、伸び伸びと生きてくれよ。俺はここで首長〜くして待ってるからよ。
彼岸花溜まっちまってるんだが、これは俺への当て付けか?
花は美しい。
たとえそれが枯れて、地に還った後も。
いつまでも人の心の中で伸び続けるから。
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