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程なくして、圭介が奥の部屋から金庫を持って戻って来た。
「私が渡したいのは、これだけ。弁護士さんが書いてくれた書類が入っているから、なくさないでね。あとは、スムーズにいろいろとできると思うわ」
「全部やってもらって、本当にわるかったな」
「いいのよ。これは、私が妻としてできる最後の役目なんだから」
呼びつけた割には意外なほど、圭介さんに対してはあっさりとした内容だった。
「もう、二度とあなたたちの前には現れないから、安心して」
金庫と一緒に、黄色い薔薇と自作のイラスト集を圭介さんに渡して私たちを送り出した。
「あなたたちが、夫婦として幸せになれるといいわね」
依子の見せるその顔は、どことなく哀れみではなく、勝ち誇った笑みを浮かべたようにも思えた。
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