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「太田さん、そんなに悩んでいたんだ。辞めるのは、いかんよ」
板倉は、いつきしかいない会議室で腕を組んで唸った。《天びん秤》に「プロジェクトを使え」と言われても、いつきには、結局、リーダーの板倉に相談するしかなかった。
「太田さんは本当に真面目な子なんで、迷惑かけたくない、と思いつめているんです」
いつきは力説しながら、板倉が当てになるのか、疑っていた。
「やる気は人一倍あるのに、仕事のできない子を、どうしたらできるようにするか。可愛いから、そのまま置いておく、じゃダメ?」
「ダメです!」
いつきの目が吊り上がる。やっぱり板倉に相談するんじゃなかった。
「冗談だよ。ジョークの通じん奴だな。はあ、仕方ない。あの人に相談してみるか」
あの人? 誰の事?
「人事部の高山係長だよ。覚えていない?」
「あの……どちら様でしたでしょうか?」
「ESプロジェクトのメンバーだよ。初回ミーティングで俺に噛みついていた、お姉さんがいたでしょ。あの人、従業員教育の大ベテランで、君らの新人研修のプログラムは、あの人が全部作っている」
「そんな凄い人なんですか。でも、早苗のような発達障害に対応できるんでしょうか」
「それは知らん。それより問題なのは、あの人にどうやって頼むか、だよ。高山さんは忙しい上に、大体機嫌悪いから、お願いを聞いてもらうには、余程うまく頼まないと。俺はいつも怒られるから、説得の自信がない。前橋くん、一緒に来てくれるか?」
「わかりました! 行きます!」
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