エピローグ

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96f789c2-b92e-46c9-b8c9-1ebc40e1f486 振り返ると一柳先生がいた。学校では絶対見ることのないパープルのワンピースを身に着け、いつもより口紅が赤かった。  目が少しつり上がり、責めるように祐樹の顔を見ている。  祐樹はなぜか正面から見ることが出来なくて、そっと下を向いた。 「真白くん」  一柳先生の声がかすかにうわずっていた。一柳先生が喉をゴクンと鳴らすのがハッキリと聞こえた。 「私にフェイクは通用しない」  生徒指導主任の鋭い口調が祐樹に投げかけられた。  一柳先生の言葉に、祐樹はハッとした。  そうだ。ふたりは同じ高校の生徒指導主任と生徒の関係なのだ。教師と生徒が放課後とはいえ、ふたりで会ってもいいのだろうか?  祐樹は改めてふたりの関係について思い起こした。  一柳先生は祐樹の思いを知っているのだろうか?  今度は急に目を伏せ、悲しそうな口調で 「私が来て嬉しい?」  そう訴えるように訪ねてきた。  祐樹は顔を上げた。しっかりと一柳先生の顔を見つめた。  一柳先生ったら、指導を受ける生徒のように緊張した表情である。  今、目の前に立っているのは生徒指導の一柳先生ではなかった。  祐樹は心の中で、めまぐるしく考えをまとめていた。 (僕らどういう関係なんだろう。とっても仲のいい教師と生徒の関係なんだろうか?だけど教師と生徒が、一緒にふたりっきりで食事をするってやっぱり問題だろうか?)  そこまで考えてから、あわてて次のように路線を変更した。 (だけど一柳先生は僕の担任教師じゃないし、僕、生徒指導のお世話になるような生徒なんかじゃないから、やっぱり問題ないんだ。同じ学校にいるだけの見知らぬ他人同士なんだ)  だからといって仲よくなって何も問題ないとまでは、祐樹も言い切れなかった。  今の祐樹は、一柳先生とどう向き合うべきかで、フラフラと揺れ動いている。  それは一柳先生も同じなんだろう。  ふと明日香の言葉が心に甦る。 (卒業までの関係なんでしょう?)  祐樹は強引に答えを出した。 (そうだよね。僕ら卒業までに結論を出せばいいんだ)  一瞬、都合のいい結論ではないかと後ろめたく感じたが、強引に封印することにした。  祐樹は顔を上げて顏いっぱい、心いっぱいの笑顔を、一柳先生に向けた。 「ええ、とっても!」  一柳先生の顏がパッと明るくなった。生徒指導の教師ではなく、一柳美里、三十一歳の表情で祐樹の右手を握った。  そのままふたりは手を握ったまま歩き出した。 (いいんだよね。これで……)  自分を納得させる祐樹の隣。一柳先生が厳しい口調で話しかけてくる。 「ただし私は教師として真実は明らかにしなければいけない。さっき話していた子は?どういう関係?本当のことを言いなさい」 「幼馴染の先輩です。偶然会って話していただけです」 「私はその答えに納得出来ない」  祐樹の右手を握る一柳先生の左手の力が強くなる。生徒指導室に連れられていく生徒の気持ちが痛いほどよく分かる。 「きちんと答えなさい」  祐樹は恐る恐る一柳先生の方を見つめる。  パープルのワンピースが目の中に入ってくる。厳しい一柳先生には、濃いパープルカラーがよく似合う。  いつもより少し短めのスカートにドキリとさせられる。 「先生、ステキです」  自然と言葉が出ていた。 「えっ、そんな! それって本当のこと言ってるの。待って! 嬉しいけど、それだけじゃ騙されません。だけど本当なの?」 「本当ですって」 「待ちなさい。私の目を見て言いなさい。さっきの言葉本当に本当なの?」 「だから真実で本当ですって」 ………………          to be continued    
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