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一柳先生が夢見る乙女になったことについて
「僕、一柳先生のことが大好きです」
夢見る心で、夢見るように一柳先生に語りかけていた。
口にしてから、ハッとして一柳先生を見つめた。
一体全体、何てこと言ったんだろう。
自分でも信じられない思いだった。
祐樹の言葉に対する一柳先生の反応は、あまりにも信じられないものだった。
「ウソ!」
一柳先生の言葉が小さく聞こえる。
弱々しい口調だった。
「ウソでしょう」
一柳先生の頬が真っ赤に染まる。
恥ずかしそうに首を振る。
今まで見たこともない表情。
「助かりたいからそんなこと言って」
声が震えている。自分の動揺を隠すように祐樹のスクールバッグを取り上げた。
「中を調べる。子どもの浅知恵になんか騙されないから」
一柳先生は、何とか威厳を守ろうとしている。
だがその威厳は、スクールバッグの中から、祐樹が描いた学園祭用のテスト作品を見たとき、完全に失われた。
一柳先生は、クリアファイルにはさまれた肖像画を真剣な表情で見つめる。
両目に涙が浮かんでいた。
「これって私?そう、私だよね」
祐樹は一柳先生の涙目の問いかけに、どうしても真実が言えなかった。
それが人気女優、高槻彩香の肖像画だということを……。
一柳先生の右手が祐樹の左腕から離れる。
そっと祐樹の左手の先を握っていた。
「車で話しましょう。どうしたらうまくいくか」
一柳先生が一瞬のうちに夢見る乙女の口調になっていた。
「教師になったとき、生徒の心に寄り添う教師になろうと理想を抱いていた。でも仕事の忙しさの中で、生徒を教育することしか考えなくなっていた。過ちを厳しく正すことは当然。でも生徒の心に寄り添うことを忘れてはならなかった」
一柳先生が祐樹にニッコリ微笑みかける。
「それを思い出したのは真白くんのお陰。」
もう我慢出来ないといった感動の表情で、祐樹の体を抱きしめていた。
「私はここで真白君を待っていた。でも本当は真白君が私を待っていてくれた。忘れかけた私の理想を手に持って……」
一柳先生とは全く関係のない高槻彩香の絵を感動の面持ちで見つめる。
「本当にそっくりだわ。でもちょっと美しく描きすぎている。本当に真白くんって可愛い」
ですからね。その絵は一柳先生とは関係ないんだって……。
何も知らない一柳先生ったら、今度は真剣な表情で真白に頭を下げた。
「お願い。この絵を私に下さい。自宅の壁に貼るから。たくさん縮小コピーして車の中とか、あちこちに貼るから」
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