探して、待って、迎えられて

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探して、待って、迎えられて

 ない。  冷たく奥行きのある空洞を睨む。  異様に冷たい風が首の後ろを撫でる。  おかしい。  普段ならば、この収穫はすぐ終わるはずなのに。  予想外だ。  落ち着け。まだないと決まったわけではない。  一歩下がり、目の前の壁の全体を見ようと上下に視線を辿らせる。念のため左右の壁も確認する。  周りの人間に探ってることを悟られないよう、視線の動きは最低限にとどめる。  だが、やはりないものはなかった。 「……」  私は潔く壁に背を向けた。これ以上いても無意味だ。  凛とした姿勢を意識し、元来た道を辿り入口へ戻った。  外の環境も過酷とはわかっている。だが、ここに求めるものがない以上、もうしばらくの探索も必要だ。  扉を開かせる敷物を踏む。  間抜けな店内音声に見送られ、私は外へ出た。  足は灼熱の石畳を踏み、頭は刺すような太陽光に焼かれる。  ため息が出そうになるのを堪える。道行く他人程度であっても、隙のある姿は見せたくない。  蝉がうるさい。このコンクリートジャングルの中、ご苦労なこと。  目の前に伸びる宮益坂を大勢の人が行き来する。  七月三十日(水)十二時五分、渋谷。  私は望みの品を求め、コンビニをあとにした。
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