王家の墓

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王家の墓

 人の背の、三倍の高さの頑丈な壁で覆われている城下町を見下ろすような丘の上に、広大な王家の墓はあった。  今日は、半年前に崩御されたアンリ王とその王妃の月命日だった。国民たちはまだ両陛下への悲しみを忘れてはいない。墓のある丘を眺めるだけで涙する者たちも少なくなかった。  月命日のたびに、町の民がそれぞれ花を手に、その丘を上がる。この日だけは、王家の墓の門が開放され、日暮れまで一般の民が二人を偲ぶことができた。  色褪せたドレスをはためかせながら、その母親は六歳の息子の手を引いて急いでいた。陽が傾きはじめているからだ。  墓参りを済ませた大勢の老若男女とすれ違った。  本来ならもっと早く家を出るつもりだったが、手間取った。出掛けに下の娘を近所に住む母に預けていこうとしたが、その母の姿が見えなくて探しまわったのだ。 「疲れたよぉ」  息子が手を引かれてぐずるような言い方をする。駆け足のようになってしまったからだろう。母親ですら息を弾ませていた。しかし、焦る気持ちの方が強い。 「早くしないと門がしまっちゃう。今日は月命日なんだ。お前が行けば、きっとセレステ様がお喜びになるよ」  そう言ってなだめるように深い紫色の花をちらつかせた。  それはアンリ王とセレステ妃が最も愛した野に咲く花だった。それまでは花にまったく興味を示さなかった息子も見かけると近寄って笑顔を向けるようになった。  まだご健在だった頃、子供好きなセレステ妃は、よく城から出て町の民たちやその子供たちと言葉を交わすことが多かった。息子もすぐに名前を憶えてもらえて遠い国の話などを聞かせてもらったこともあった。
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