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母親にそう言われてようやく自分が亡き王妃の大ファンだったこと思い出したらしい。
「うん、わかった」
子供は大きく歩を踏み出し、その手を引く力が緩んだ。現金なことに鼻歌まで歌っている。子供の機嫌が直ったことに安堵した母親。
「急ごう、早く行こうね。セレステ様がお待ちだよ」
また駆けるようにして小山を登った。母と子がそこにたどり着いたのはもう日暮れの直前だった。陰になっている景色はもう既に夜をうかがわせている。
大きな槍を立てて門の前に立っていた番人が、夕暮れ時にやってきた二人を見て顔をしかめた。
「もうおしまいだ。閉めてしまうぞ」
門番は日暮れには門を閉めて帰っていく。その帰りが遅くなるのが嫌なんだろう。
しかし、母親は追い返されてなるものかと歯を食いしばった。子供を連れてやっとここまで来たんだ。このまま何もしないで来た道を戻りたくなかった。母親は手を合わせて頼み込む。
「誠にすみません。一日の仕事を終えて急いできたんです。お願いします。この花を添えるだけでもいいですから、中へ入れてください」
手を合わせて拝むように哀願する母親の横で、子供はその緊迫した雰囲気を察知して顔をゆがめた。顔が真っ赤になり、泣きそうになる。
その顔を見た門番は苦渋の決断をするかのように言った。
「しかたない。入れ。こんな黄昏時に子供が泣くと妙なモノを呼ぶかもしれんからな」
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