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一年経った。僕はあの日と同じ場所に立っている。実家の庭にあった金木犀の木から数本枝を失敬してきた。それをまとめて胸に抱える。
「後悔なんてしてない」
踏み出す足が震える。
「お前の……夏樹の癖の意味が知りたかった」
花束を持った手に力が入った。
「謝ってほしくて殺したんじゃない。助けたかった」
ひと際風を強く感じた。
「ごめん、手を引いてやれなくてごめん」
体が浮遊感に包まれた。
ずっと夏樹の幻を見ていた。自責の念は一年経っても消えなかった。
コンクリートが頭上に近づいた時、終わったはずの夏の匂いが鼻をかすめたような気がした。
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