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肌寒くなった。深く吸った煙草の煙に肺が陰る。夏の匂いを懐かしむ間もなく、金木犀の甘ったるい香りが鼻をかすめるようになった。
「真澄くん」
微かに肩が震え、灰が落ちる。僕は小さく舌打ちをして煙草の火を消した。奴は僕が返事をするのを待っている。反応しなければいつまでも立っているような気がして、僕はもう一度舌を鳴らす。
「なに」
不愛想に返すと、奴もまた肩を震わせた。
「ごめんね」
おどおどとしていた。情けなく眉尻を下げて、再度「ごめん」と言う。僕と奴の会話は、ここ最近ずっとこんな調子だった。
「お前が気にすることなんてない」
「……。だけど、ごめんね」
僕が眉を顰めると、奴はわずかに俯いてどこかへ行ってしまった。
「ハァ……」
「真澄? 何してんの」
喫煙所の狭いスペースに体を滑り込ませてきたのは、同じゼミを選択する加藤だった。加藤は僕の隣で煙草に火を付けた。
「煙草休憩に決まってるでしょ」
「だって煙草消してから時間たってたみたいだったから」
「いや、ぼーっとしてた」
「ふーん」
特に引っ掛かるところはなかったようで、加藤はすぐに話題を変えた。ころころと変わっていく話題に笑っているうちに、僕が奴のことをこれ以上考えることはなかった。
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