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  僕と奴は親友と呼べる関係にあったと思う。幼馴染という訳では無いが、そこそこ付き合いが長く、学部は違うが大学まで同じところを選んだ。時折僕のアパートに泊めてはゲームではしゃいだり、酒を飲んでみたりしていた。   日常が壊れたのは、大学三年の夏だった。元々自身を追い詰めることで生きるバランスをとっているような奴だった。それが悪化して、自傷行為が見られるようになった。奴と奴の家族がうまくいっていないことは知っていた。それを庇うために家に泊めていた面もある。      しかし、夏のある時を境に彼は壊れてしまったのだった。僕にはきっかけなど分からなかった。何度問い詰めても、奴は「ごめんね」というばかり。   ただ一度だけ、核心に近いことを言っていた。奴は目の下を擦りながら、「僕の傘は何のためにあったんだろう」とこぼした。奴の目の下を擦る癖は、出会った時からずっと続いているものだった。僕はそれを見るたびに、何とも言えない気持ちになった。   やがて僕は、自分から奴に声を掛けなくなった。奴は日に日にやつれていくように見えた。その一方で、笑顔を見せるようになった。それを見た時、ついに壊れてしまったのだと僕は確信することになる。     そしてその年の夏の終わり、奴は死んだのだった。奴はいつのころからか持っていた、曲がった灰色の傘を抱いていた。マンションの下で傘を抱きしめたまま死んだ。折れ曲がった奴の細い足を知っている。     「ごめんね、ひとりじゃ怖かった」     奴の泣き顔を初めて見た。     「ごめんね、真澄くんだけは最期まで頼れなかった」     奴の心からの笑みを初めて見た。     「ごめんね、君だけが頼りだった」     僕は奴に手を伸ばした。     「ごめんね」     奴の体が僕の手を離れていく。     「君を泣かせてしまって、ごめんね」     そして、僕は奴の死体を見下ろした。     そして、大学三年の夏が終わった。      
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