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此処に来て、三年の月日が流れた
津富はいつも笑顔を向けてくれるし、他の猟師さん達も悪い人ではなかった
だから、猪を見付けて追い立てる事が俺の使命であり役割だと自覚してる
「 そろそろ、見つける頃かな? 」
「 ワウゥゥウッ〜!!( 見つけたぜー! )」
「 よし、皆さん。準備をお願いします 」
「 流石、ユキ。俺のクロより早いわ 」
「 それなー 」
他の猟犬達と、どっちが先に猪を見つけるかって事もしてるから楽しくて仕方無い
「 ワウッ!( オラオラ!!向こうにいけよ!! )」
「「 ブヒヒヒッ!! 」」
吠えれば驚いて逃げていく様も面白くて、そのまま猪の群れを津富の場所まで追い立てれば、ある程度した場所で鼻に付く火薬の匂いに気付き、脚を止める
「 ハァー( 余り行くと俺が間違えて打たれてしまう )」
前に、火薬の匂いを覚える為に
態と紐に繋がれた状態で銃を向けられて撃たれたことがある
身体には当たりはしなかったけど、それが怖くて近づく距離を決めていれば、いくつかの銃声と共に猪の悲鳴が森に鳴り響く
「 ワフッ…( よう、ユキ。終わったぜ )」
「 ガルゥ…( みたいだな、良かった )」
真っ黒い身体に、胸元の毛だけ白いクロと呼ばれてるスレンダーな猟犬の言葉に、返事をすれば、津富が呼ぶ口笛が聞こえ、走って戻る
「 ユキ、お疲れ様 」
「( おぉ!!出来た、出来た!俺すごい!? )」
「 嗚呼、凄いぞ。ありがとな 」
森を出れば仕留められてる数頭の猪がいて、それを見て喜んで津富の足元へと擦り寄れば、沢山褒めて撫でてくれるから嬉しかった
直ぐに津富は、他の猟師と共に川で猪の血抜きをして、家に持ち帰って猪を吊してから、皮を剥ぐ
その様子を見ていれば、いつもプレゼントをくれる
「 ほら、ユキ。御前の給料だ 」
「 ガルッ!( おー!肉付きの骨!!これこれー、津富〜よくわかってるなー )」
ポイッと投げられた大きな骨付き肉を、軽くジャンプしてキャッチして咥えれば、床に片手で抑えては噛み付いて食べる
その間に津富は、猪の肉を人間が食べれるように加工出来る大きさに切って、バラバラにして、それを冷凍庫に保存するんだ
それを街の精肉店とかで売るらしい
まぁ、そんなのを気にせず骨までバキバキ音を立て食べれば、津富は少しその様子を眺めていた
「( 狼が…日本にいるわけないよな…… )」
「( フフンッ、捕まえたばかりのはやっぱり美味いな〜 )」
粉々に砕いた骨を飲み込んで、動いた後で空腹だった腹は満たされては、尻尾振って血で濡れた手足を溜めて、舌舐めをする
目が合った事に傾げれば、津富は直ぐに作業へと戻る
冬も、この家にいて寒い時は炭が使われる暖炉が焚かれるけど、ちょっと熱いから離れた場所で暖まっては、昼間は猪を追いかけていた
春になれば、小さな猪が増えるからそれはもう捕まえて持っていくことが多く
夏は、暑くてバテるために津富と一緒に川に入って遊んでいた
そして、此処に来て五度目の冬が来た頃だ…
「 ゴホッ…ゴホッ… 」
「( 津富、どうした? )」
津富はよく咳をするようになって、川で遊びすぎて風邪を引いた時とは違うような、重く苦しそうな咳をし始めた
「 ユキ……、そんな顔をしなくても…俺は大丈夫だよ。ゴホッ… 」
「 クゥン…( それならいいが… )」
俺の撫でる手は、力強く無くて少し弱さを感じる
それが不安で、冷たい夜はしっかりと側にいることにした
「 ユキ…御前は暖かいな……。俺は、ずっと一人で生活してきたが…お前が居てくれて、寂しくない… 」
「( ……津富 )」
俺を産んでくれた家族の事は覚えてない
もう、津富が俺の家族であり仕事のパートナーだったから十分だった
幸せ過ぎて、充実過ぎる毎日に、只明日も同じであれば良いと思っていた
けれど、雪が溶けるようにそれも終わりが近づく
「 ゴホッ… 」
その日、いつもとは違う森で狩りが行われた
「 津富、余り無理するなよ? 」
「 平気です…。ゴホッ……。ユキ、猪を探すんだ。いいな? 」
「 ワフッ…( 分かった )」
「 よし、GO!! 」
他の猟師達と共に、一斉に森へと走れば津富は其の様子を見て、少し前進する
土の匂い、木に残る匂い、それ等を広い森の中で嗅ぎ取れば走る
「 クロ!リュウ!早くっ!!こっち! 」
「 はぁ…待てよ…俺、もう歳だから… 」
「 アイツ…異様に若いよな…。マジで五歳かよ…二歳の間違いだろう…… 」
いつの間にか老いぼれになった彼等に声を掛ければ、少し息を切らして来る為に、それじゃ間に合わないと分かり置いていく
「 先、行ってるからな!! 」
「「 お、おう…… 」」
任せたとばかりに見送った彼等に、背中を向けては猪の群れへと見付け、前へと周りこんでから吠える
「 アウゥゥゥウ!!( 見つけた!! )」
遠吠えと合図に、逃げる猪を追い立てて群れの中で一番大きな猪を狙って、追い込む
「 ブヒヒヒッ!! 」
余りにも大きくて夢中になって、いつもの距離感を掴めず、猪が飛び出した後に草むらから出る
ズダンッ!!
まるで耳元で鳴り響く様な銃声に驚いた時には、痛みに身体は地面へと滑り倒れていた
「 ウソだろ……ユキ!! 」
発泡したのは猟師の一人で、彼は驚いて近付こうとするも猪は、掠り傷だったのか立ち上がった
「 グルル…( 一番でかいのは…仕留めなきゃ… )」
「 ユキ、待て!!待つんだ!! 」
逃げる猪を追い掛けては、痛む前脚を懸命に動かして、遠くから聞こえる銃声で、他の猪も仕留められたんだと少し安心する
「 ユ…キ…?っ!! 」
一際大きな猪は、津富のいる場所へと出れば彼は、俺の姿に驚くけれど銃を構えた
「 ブヒヒヒッ!! 」
「 ガルルルッ……!! 」
猪へと被さり、身体をなんとか倒そうと分厚い皮膚へと噛みつき、背中を振る猪にしがみつく
「 っ!ユキ、退くんだ!!御前まで、当たってしまう!! 」
人間の言葉って、舌の使い方や言葉の発音が少し違うから難しいんだ
けれど、焦ってたから発してしまった
「 俺は、いいから!早く!! 」
「 っ!?ユキ……分かった! 」
けれど彼は、俺が声を出したにも関わらず
銃を向けることを止めなかった為に、最後に思いっきり猪を横へと倒し、すぐに離れた
「 ブヒッ!!! 」
一発の銃声が鳴り響き、起き上がろうとした猪はそのまま力尽き、俺も身体がふらつき、身を雪の上へと倒した
「 はっ……ユキ!!撃たれてるのか!?直ぐに止血…してやる! 」
銃を放り投げて、此方へと駆け寄ってきた津富は目に涙を溜めては服の中から布を出して、腕の傷口へと押し当て、他の部分を絞って結んだ
「 っ……いた、い… 」
「 分かってる、なんで…流れ弾が当たる所まで来たんだ!御前は…賢いだろう 」
「 おおきな、猪…しとめ、たかった… 」
「 良くやった…御前は、本当によくやった……。俺の、自慢のパートナーだよ 」
自分の手が赤く染まることを気にせず、津富は泣きながら止血していた
直ぐに猟犬やら、他の猟師達も来てたのは足音で気付いた為に、俺の意識はそこで途切れる
もう大丈夫だって、確信があったから
長く寝てる気がして、いつもの部屋へと違う場所に来ていれば、起き上がろうとした時に、津富の声は聞こえてきた
「 無理に起きなくていい…。本当、お騒がせな奴だな…御前はもう、大丈夫だ 」
そっと首に触れる津富の言葉に安心して、
もう一度、眠りについた
此処が、彼が本当に暮らしてる街にある家だと知ったのは少し後からだ
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